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なぜ必要?非常停止ボタンの知られざる歴史と最新の安全対策トレンド

2025/07/24

非常停止ボタンは、工場や機械設備において作業者の命を守る最後の砦です。この記事では、単なる赤いボタンに留まらないその役割と重要性、労働安全衛生法や国際規格に基づく設置義務を解説。産業革命から現代に至る歴史的進化を紐解き、IoTやAIが変える最新の安全対策トレンドにも迫ります。非常停止ボタンの種類や適切な使い方、点検の重要性まで網羅的に解説することで、なぜこれが不可欠なのかを深く理解し、職場の安全確保に役立つ実践的な知識を得られます。

1. 非常停止ボタンとは?その役割と重要性

非常停止ボタンは、産業機械や設備において、予期せぬ事態や危険が発生した際に、その動作を即座に停止させるための最終的な安全装置です。その目的は、作業者の人命保護、設備の損壊防止、そして事故の拡大を未然に防ぐことにあります。多くの工場や建設現場、エレベーター、エスカレーターなど、動力を持つあらゆる機械の周辺に設置されており、その存在は現代の安全管理において不可欠です。

単なる「停止ボタン」とは異なり、非常停止ボタンは緊急時に最優先で機能するように設計されています。通常の操作で停止できない、あるいは停止操作では間に合わないような差し迫った危険な状況において、瞬時に機械の全動力を遮断し、危険源を取り除く役割を担います。この迅速かつ確実な停止機能が、重大な事故を防ぐための最後の砦となるのです。

1.1 非常停止ボタンの主な役割と期待される効果

非常停止ボタンは、以下に示す複数の重要な役割を担い、様々な安全効果をもたらします。

役割

具体的な機能

期待される安全効果

人命の保護

作業者が機械に巻き込まれそうになった際や、予期せぬ動作によって危険が迫った際に、即座に機械の動きを止める。

挟まれ、巻き込まれ、切断などの重大な人身事故を回避し、作業者の生命と身体を守る

事故の拡大防止

機械の故障や誤動作、製品の異常などが発生した際に、二次災害や損害の拡大を防ぐために迅速に停止させる。

火災、爆発、設備の連鎖的な破損、製品の大量不良といった大規模な損害や二次災害の発生を最小限に抑える

緊急時の迅速な対応

パニック状態でも容易に操作できるよう、目立つ色(赤色)と形状(きのこ型など)で設計され、一目で認識できる。

緊急事態発生時に、誰でも迷うことなく迅速に操作できることで、事態の収拾と安全確保を早める。

法的・国際的要件の遵守

労働安全衛生法や国際規格(ISO、JISなど)によって、特定の機械への設置が義務付けられている。

企業が安全基準を満たし、法的責任を果たすとともに、安全な職場環境を維持するための基盤となる。

これらの役割を通じて、非常停止ボタンは単なる物理的なスイッチではなく、リスクマネジメントと安全文化の象徴として、現代の産業現場に不可欠な存在となっています。

2. なぜ必要?非常停止ボタンが命を守る理由

2.1 事故を未然に防ぐ緊急停止の役割

産業現場や日常生活において、機械や設備は私たちの生活を豊かにする一方で、潜在的な危険性も持ち合わせています。予期せぬ機械の誤作動や故障、あるいは作業者の不注意など、さまざまな要因によって重大な事故が発生するリスクは常に存在します。このような緊急事態において、被害を最小限に抑え、あるいは完全に回避するための最終防衛線となるのが、非常停止ボタンです。

非常停止ボタンの最大の役割は、危険な状況が発生した際に、即座に機械の動作を停止させることにあります。例えば、作業者が機械に巻き込まれそうになった時、予期せぬ火花が発生した時、あるいは制御不能な状態に陥った時など、一刻を争う状況で迅速に機械を停止させることで、作業者の生命や身体を守り、設備の損傷を防ぎます。単なる電源オフとは異なり、非常停止機能は機械のすべての動力源を遮断し、危険な動きを確実に停止させることを目的として設計されています。これにより、二次災害の発生も抑制し、安全な状態を確保することが可能となります。

2.2 労働安全衛生法と非常停止ボタンの設置義務

日本においては、労働者の安全と健康を確保するため、労働安全衛生法および関連規則によって、機械や設備の安全対策が厳しく定められています。非常停止ボタンの設置義務も、この法令体系の中で明確に規定されており、事業者が遵守すべき重要な項目の一つです。

具体的には、労働安全衛生規則の第129条や第130条などで、動力を用いて稼働する機械について、緊急時に直ちにその運転を停止させるための装置(非常停止装置)を設けることや、その装置が容易に操作できる位置にあることなどが義務付けられています。これは、機械を扱うすべての事業場において、作業者の安全を最優先するという国の強い意志の表れです。

事業者は、この法令に基づき、危険源を特定し、適切な非常停止装置を選定・設置するだけでなく、その定期的な点検と保守を行う義務があります。非常停止ボタンの設置は、単なる法的な義務に留まらず、企業の安全配慮義務の一環として、従業員の命を守るための不可欠な投資であり、企業の社会的責任を果たす上でも極めて重要であると言えます。

2.3 国際規格ISOとJISが定める非常停止の基準

非常停止ボタンの設計、設置、および機能に関する基準は、日本国内の法令だけでなく、国際的な標準化機構(ISO)日本産業規格(JIS)によっても詳細に定められています。これらの規格は、世界中の機械や設備が一定レベル以上の安全性を確保し、国境を越えて安全な製品が流通することを目的としています。

特に重要な国際規格として、ISO 13850「機械類の安全性-非常停止機能-設計原則」が挙げられます。この規格は、非常停止ボタンの色(通常は赤色、背景は黄色)形状(キノコ型など)操作性確実な停止機能(フェールセーフ性)など、非常停止機能に求められる基本的な要件を規定しています。日本においては、このISO規格を基にJIS B 9703「機械類の安全性-非常停止機能-設計原則」が制定されており、国内の機械メーカーや設備設置者はこれらの規格に準拠することが求められます。

これらの規格に準拠することで、非常停止ボタンは緊急時に誰もが直感的に操作できるようになり、また、故障時にも安全側に動作するフェールセーフ設計が保証されます。以下に、主要な規格とその内容の概要を示します。

規格名

概要

主な規定内容

ISO 13850

機械類の非常停止機能に関する国際的な設計原則を定める。

  • 非常停止ボタンの色(赤色、黄色背景)と形状(キノコ型など)

  • 操作の容易さとアクセス性

  • フェールセーフ設計の要件

  • リセット方法と再起動の安全性

JIS B 9703

ISO 13850を基に、日本国内における非常停止機能の設計原則を定める。

  • ISO 13850とほぼ同等の内容を日本語で規定

  • 国内での適用を考慮した詳細な解釈

  • 非常停止回路の信頼性に関する要求事項

ISO 12100

機械類の安全性に関する一般原則で、リスクアセスメントの考え方を含む。

  • 危険源の特定とリスクの見積もり

  • リスク低減のための設計原則

  • 非常停止機能を含む安全装置の優先順位付け

これらの国際および国内規格への準拠は、製品の市場性を高めるだけでなく、何よりも利用者の安全を確保するための基盤となります。規格に則った非常停止機能は、万が一の事態において、人命を守るための最後の砦として機能するのです。

3. 非常停止ボタンの知られざる歴史と進化

非常停止ボタンは、現代の産業現場において不可欠な安全装置として認識されていますが、その誕生と進化の過程には、人類の技術発展と安全意識の向上が密接に関わっています。ここでは、非常停止ボタンがいかにして現在の形に至ったのか、その知られざる歴史と進化の軌跡を紐解きます。

3.1 産業革命が生んだ安全装置の萌芽

非常停止ボタンの概念は、18世紀後半から19世紀にかけての産業革命期にその萌芽を見ることができます。この時代、蒸気機関や初期の機械が導入され、生産性は飛躍的に向上しました。しかし、同時に安全対策は未熟であり、多くの労働災害が発生していました。

当時の機械は、一度稼働すると手動で止めるのが困難なものが多く、事故が発生してもすぐに機械を停止させる手段が限られていました。初期の安全対策は、機械の危険部分にガードを取り付けるなど、物理的な隔離が主でした。しかし、緊急時に機械全体を即座に停止させる必要性が認識され始め、紐を引いたり、レバーを操作したりする原始的な緊急停止装置が考案され始めます。

特に、20世紀に入り電気が普及し、電動機が産業機械の動力源として広く使われるようになると、電気回路を利用した非常停止の可能性が大きく広がりました。これにより、遠隔からでも機械の電源を遮断し、迅速に停止させることが可能になったのです。

3.2 危険な機械から人を守る非常停止の発展

20世紀初頭から中盤にかけて、機械化がさらに進むにつれて、労働災害は社会的な問題として大きく取り上げられるようになりました。これを受け、各国で労働安全衛生法の制定や強化が進み、機械の安全設計が義務付けられるようになります。この流れの中で、非常停止装置は単なる付加機能ではなく、機械に必須の安全機能として位置づけられるようになりました。

この時期に、現在の非常停止ボタンの原型となる「押しボタン式」の非常停止装置が登場します。初期は単なる電源遮断スイッチでしたが、より迅速かつ確実に操作できることが求められ、操作しやすいキノコ型のボタンや、緊急性を視覚的に伝える赤色の採用が進みました。また、機械の電源が復旧しても、非常停止ボタンが解除されるまでは再起動しない「フェールセーフ」の思想が導入され、安全性が飛躍的に向上しました。

さらに、複数の非常停止ボタンが設置される場合でも、いずれか一つが操作されれば機械全体が停止する「インターロック」機能や、非常停止後に意図しない再起動を防ぐための「ラッチ機能」など、より高度な安全機能が組み込まれていきました。これにより、非常停止ボタンは、単に機械を止めるだけでなく、二次災害を防ぐための重要な役割を担うようになったのです。

3.3 国際的な標準化と非常停止ボタンの普及

20世紀後半になると、産業機械の国際的な取引が活発になり、国ごとに異なる安全基準が課題となりました。このため、国際的な統一基準の必要性が高まり、国際標準化機構(ISO)国際電気標準会議(IEC)が機械安全に関する規格を策定するようになりました。これにより、非常停止ボタンの機能、色、形状、設置場所などに関する国際的な標準が確立され、どの国の機械であっても一貫した安全操作が可能になりました。

特に、非常停止機能の設計原則を定めたISO 13850(日本国内ではJIS B 9703として対応)は、非常停止ボタンの普及と安全性の向上に大きく貢献しました。これらの規格は、非常停止ボタンが「容易に識別でき、迅速に操作できること」「操作によって危険源への電力供給が即座に遮断されること」「一度操作されると手動で解除されるまで作動し続けること」といった具体的な要件を定めています。

国際規格の普及に伴い、各国の国内法規もこれに準拠する形で整備され、非常停止ボタンの設置は多くの産業機械で法的義務となりました。また、安全リレーや安全PLC(プログラマブルロジックコントローラ)といった、より信頼性の高い安全回路技術の発展も、非常停止システムの普及を後押ししました。これにより、非常停止ボタンは、世界中の工場や機械において、労働者の命を守るための最も基本的かつ重要な安全装置として広く認知され、その地位を確立したのです。

規格名

概要

非常停止機能への関連性

ISO 13850

機械類の安全性 - 非常停止機能 - 設計原則

非常停止ボタンの機能、色、形状、操作性に関する国際的な標準を確立し、その設計原則を詳細に規定しています。

JIS B 9700 (ISO 12100)

機械類の安全性 - 設計のための一般原則 - リスクアセスメント及びリスク低減

機械全体の安全設計における非常停止の位置づけを定めており、リスクアセスメントの結果に基づいて非常停止機能の必要性を判断する基準を提供します。

IEC 60204-1

機械の電気装置 - 第1部: 一般要求事項

機械の電気装置に関する国際規格であり、非常停止回路の電気的要件や配線、設置方法などについて詳細な規定を含んでいます。

4. 非常停止ボタンと最新の安全対策トレンド

4.1 IoTとAIが変える非常停止システムの未来

現代の産業現場では、モノのインターネット(IoT)と人工知能(AI)の技術が、非常停止システムに革新をもたらしています。従来の非常停止ボタンは、人が危険を察知し、手動で操作することが前提でしたが、IoTとAIの導入により、より高度な自動化と予知能力が実現されつつあります。

IoTセンサーは、機械の稼働状況、温度、振動、電流などのデータをリアルタイムで収集します。これらの膨大なデータをAIが分析することで、異常の兆候や故障予兆を早期に検知することが可能になります。例えば、通常とは異なる振動パターンや温度上昇をAIが学習し、危険な状態になる前に警告を発したり、自動的に機械を停止させたりするシステムが開発されています。

これにより、人間が危険を認識するよりも早く、あるいは人間では認識しきれない微細な変化を捉えて、事故を未然に防ぐことが可能になります。また、遠隔監視システムと連携することで、工場全体の安全状態を集中管理し、緊急時には遠隔からの非常停止操作も可能となり、より迅速な対応が期待されます。

4.2 予防保全と予知保全による事故リスクの低減

非常停止ボタンは「最後の砦」として機能しますが、最新の安全対策トレンドでは、そもそも非常停止が必要な状況を発生させないためのアプローチが重視されています。それが予防保全と予知保全です。

予防保全は、機械や設備の故障を未然に防ぐために、定期的な点検、部品交換、清掃などを計画的に行う保全活動です。これにより、非常停止ボタンが作動するような重大な故障や事故のリスクを低減します。非常停止ボタン自体も、その機能が確実に働くよう、定期的な点検とメンテナンスが予防保全の一環として重要です。

一方、予知保全は、IoTセンサーなどから得られるデータ(振動、音響、熱画像、電流値など)をAIで分析し、機械の故障時期や異常の兆候を予測して、最適なタイミングでメンテナンスを行う手法です。これにより、不要な部品交換を減らしつつ、故障による予期せぬダウンタイムや事故を回避できます。

非常停止ボタンは緊急時の最終手段ですが、予防保全と予知保全は、その最終手段が発動する前に問題を解決し、より安全で効率的な生産環境を構築するための重要な取り組みと言えます。両者が連携することで、より包括的な安全管理体制が実現します。

保全の種類

目的

アプローチ

非常停止ボタンとの関連性

予防保全

計画的な故障防止と寿命延長

定期的な点検、部品交換、清掃

非常停止ボタン自体の機能維持、事故原因の根本的な低減

予知保全

データに基づく故障予測と最適メンテナンス

IoTセンサー、AIによるデータ分析、異常兆候検知

非常停止ボタンが作動する前の問題解決、予期せぬ停止の回避

4.3 ヒューマンエラー対策としての非常停止ボタンの役割

多くの産業事故の原因として、ヒューマンエラーが挙げられます。人間の不注意、誤操作、判断ミスなどが、危険な状況を引き起こすことがあります。非常停止ボタンは、このようなヒューマンエラーによる事故の被害を最小限に抑えるための重要な安全装置として機能します。

どれだけ自動化が進んでも、機械の操作やメンテナンスには人間の介入が不可欠です。人間が介在する限り、エラーのリスクはゼロにはなりません。非常停止ボタンは、万が一、人間の操作ミスや予期せぬ行動によって機械が暴走したり、危険な状態になったりした場合に、即座に機械の動作を停止させ、作業者や周囲の人々の安全を確保する役割を担います。

そのため、非常停止ボタンは、作業者が容易にアクセスでき、かつ視認性の高い場所に設置されることが求められます。また、緊急時に迷わず操作できるよう、定期的な訓練や教育も欠かせません。ヒューマンエラー対策としては、ポカヨケ(フールプルーフ)などの設計段階での工夫も重要ですが、非常停止ボタンは、それらの対策を補完する最終的な安全確保の手段として不可欠です。

4.4 スマートファクトリーにおける非常停止の統合管理

スマートファクトリーとは、IoT、AI、ロボット、ビッグデータなどのデジタル技術を駆使し、生産プロセス全体が高度に連携・最適化された工場を指します。このような環境では、個々の機械だけでなく、工場全体の安全システムが統合的に管理されることが、最新のトレンドとなっています。

スマートファクトリーにおける非常停止システムは、単一の機械に設置されたボタンだけでなく、工場内のあらゆるセンサー、ロボット、搬送システム、監視カメラなどと連携します。例えば、あるエリアで異常が検知された場合、そのエリアだけでなく、関連する全ての機械やラインが自動的に停止するような連動停止システムが構築されます。

中央監視システムは、工場全体の稼働状況と安全状態をリアルタイムで把握し、異常発生時には迅速に原因を特定し、適切な非常停止措置を講じることができます。これにより、事故の拡大を防ぎ、復旧までの時間を大幅に短縮することが可能になります。

統合管理された非常停止システムは、生産効率の向上と安全性の両立に貢献します。デジタル技術の活用により、より複雑な生産ラインにおいても、迅速かつ的確な安全対策が実現され、スマートファクトリーの持続的な運用を支える基盤となります。

5. 非常停止ボタンの種類と正しい使い方

5.1 さまざまな非常停止ボタンのタイプ

非常停止ボタンは、その機能と役割の重要性から、様々な環境や用途に合わせて多種多様なタイプが存在します。適切なタイプを選定することは、緊急時の確実な操作と安全確保に直結します。

主なタイプは、その形状や操作方法、そして設置環境への適合性によって分類されます。

タイプ

特徴

主な用途・設置例

備考

キノコ型押しボタン式

最も一般的で、大きく目立つキノコ状のヘッドが特徴です。緊急時に手のひらや拳で容易に叩き込むように操作できます。

産業機械、製造ライン、工作機械、ロボットセルなど、広範囲の機械設備

JISやISOで赤色に規定され、視認性が非常に高いです。ラッチング(自己保持)機能を持つものがほとんどです。

平型押しボタン式

キノコ型に比べて突起が少なく、パネル埋め込みに適しています。誤操作防止のためにガードが設けられることもあります。

制御盤、操作パネル、クリーンルーム内の機器など、省スペースやデザイン性が求められる場所

キノコ型ほど緊急性が高くない、または誤操作を避けたい場合に選択されます。

ワイヤーロープ式(引っ張り式)

機械の長尺部分や広範囲にわたるエリアで、作業者がどこからでも緊急停止できるように、ワイヤーを張って設置されます。ワイヤーを引っ張ることで作動します。

コンベヤライン、大型加工機械、倉庫の自動搬送システムなど、広範囲にわたる設備

ワイヤーの張力異常や断線でも停止するフェールセーフ機能を持つものが多いです。

フットスイッチ式

足で操作するタイプで、両手がふさがっている作業や、手での操作が困難な環境で使用されます。

プレス機、溶接機、切断機など、手作業が多い機械

誤操作防止のためにカバーやガードが必須となる場合があります。

鍵付き解除式

非常停止状態を解除する際に、特定の鍵を必要とするタイプです。

誤って解除されることを防ぎたい場所、特定の権限者のみが解除できるべき場所

二次災害防止や作業手順の徹底に役立ちます。

これらのタイプは、さらに防塵・防水性能(IP等級)、耐油性、耐薬品性、耐衝撃性、防爆性などの環境適合性によって細分化されます。設置環境の特性を考慮し、適切な保護等級を持つ非常停止ボタンを選定することが不可欠です。

5.2 非常停止ボタンの適切な設置場所と選定基準

非常停止ボタンは、その名の通り「非常時」に確実に機能しなければなりません。そのため、適切な設置場所の選定と、機械や環境に合致したボタンの選定が極めて重要です。

5.2.1 適切な設置場所

  • 作業者の手が届く範囲: 作業者が通常作業する位置から、迅速かつ容易に操作できる場所に設置することが最優先です。危険源の近くや、作業者の動線上に配置します。

  • 視認性の高さ: 周囲の機器や壁の色と対比する赤色と黄色の組み合わせ(JIS B 9703、ISO 13850に準拠)が推奨され、目立つように設置します。周囲に障害物がなく、照明が適切に当たる場所を選びます。

  • 複数設置の必要性: 機械の規模が大きく、複数の作業場所がある場合や、危険源が複数存在する場合には、複数の非常停止ボタンを分散して設置する必要があります。これにより、どこからでも緊急停止が可能になります。

  • 避難経路を妨げない: 非常停止ボタンの設置によって、緊急時の避難経路が妨げられたり、作業者の通行を阻害したりしないように配慮します。

  • 誤操作の防止: 不用意な接触による誤操作を防ぐために、適切な高さや位置を選び、必要に応じてガードを設けることも検討します。

5.2.2 選定基準

  • 機械の種類と危険度: 停止させる機械の種類、その機械がもたらす可能性のある危険の度合い(挟まれ、巻き込まれ、感電など)に応じて、適切な応答速度や停止カテゴリー(例:JIS B 9703における停止カテゴリー0、1、2)を持つボタンを選定します。

  • 作業環境: 粉塵が多い場所、水や油がかかる場所、高温・低温環境、振動がある場所など、設置環境の特性に合わせて、適切な保護構造(IP等級)や材質を持つボタンを選びます。防爆エリアでは、防爆構造の非常停止ボタンが必須です。

  • 操作性: 緊急時に慌てず確実に操作できるよう、押しやすさ、視認性、耐久性を考慮します。手袋を着用して作業する場合でも操作しやすい形状であるかを確認します。

  • 信頼性と耐久性: 長期間にわたって安定して機能する信頼性と、頻繁な使用や過酷な環境に耐えうる耐久性を持つ製品を選びます。

  • 法令・規格への適合: 労働安全衛生法、労働安全衛生規則、JIS B 9703(機械類の安全性-非常停止機能に関する設計原則)、ISO 13850(機械の安全性-非常停止機能-設計原則)などの国内法規および国際規格に適合している製品を選定します。

5.3 緊急時の操作方法と解除の注意点

非常停止ボタンは、通常の運転停止ボタンとは異なり、危険が差し迫った状況や、既に事故が発生している場合に、即座に機械の動作を停止させるための最終手段です。その操作方法と解除には、厳格な手順と注意点が求められます。

5.3.1 緊急時の操作方法

  • 躊躇なく操作する: 危険を察知した、または事故が発生したと判断した場合は、迷わず、強く、確実に非常停止ボタンを押してください。キノコ型の場合は、手のひらや拳で叩き込むように操作します。

  • 「停止」ではなく「非常停止」: 非常停止ボタンは、単に機械を止めるだけでなく、全ての動力源を遮断し、危険な動きを即座に停止させることを目的としています。通常の停止ボタンとは機能が異なることを理解しておく必要があります。

  • 訓練の実施: 作業者全員が非常停止ボタンの位置を把握し、緊急時に迅速かつ適切に操作できるよう、定期的な訓練や周知を徹底することが重要です。

5.3.2 解除の注意点

非常停止ボタンが作動した後、安易に解除することは二次災害を引き起こす可能性があるため、以下の点に厳重に注意が必要です。

  • 安全確認の徹底: 非常停止が作動した原因(危険源)が完全に排除されたか、作業員や関係者が安全な状態にあるかなど、周囲の状況を十分に確認してから解除を行います。解除前に機械の内部や周囲に人がいないか、挟まれそうなものがないかなどを徹底的に確認します。

  • 解除方法の理解: 非常停止ボタンの解除方法は、引き戻し式、回転式、鍵式など様々です。設置されているボタンの解除方法を事前に把握しておく必要があります。鍵式の場合は、権限を持つ者のみが解除できるように管理を徹底します。

  • 安易な解除の禁止: 「ちょっと止まっただけ」「すぐ動かしたい」といった安易な理由で解除することは絶対に避けてください。原因究明と安全確保が最優先です。

  • 再起動手順の遵守: 非常停止を解除した後、機械を再起動する際には、必ず定められた手順(リセット操作、安全確認、起動準備など)に従ってください。多くの場合、非常停止解除後に再度起動ボタンを押す必要があります。

  • 記録と報告: 非常停止が作動した場合は、その状況、原因、解除までの経緯などを記録し、関係者に報告することが推奨されます。これにより、再発防止や安全対策の改善に繋がります。

5.4 非常停止機能の定期点検とメンテナンスの重要性

非常停止ボタンは、その性質上、普段は使用されることが少ない安全装置ですが、いざという時に確実に機能することが絶対条件です。そのため、定期的な点検と適切なメンテナンスが不可欠であり、これは法令によっても義務付けられています。

5.4.1 定期点検の項目

非常停止機能の点検は、以下の項目を重点的に行います。

  • ボタンの動作確認: 実際にボタンを押し込み、確実に機械が停止することを確認します。解除操作もスムーズに行えるか確認します。ボタンの固着や戻りの悪さがないかをチェックします。

  • 視認性の確認: ボタンが汚れで隠れていないか、周囲の障害物によって見えにくくなっていないかを確認します。表示灯がある場合は、正常に点灯するかを確認します。

  • 設置状態の確認: ボタンがしっかりと固定されているか、グラつきがないかを確認します。ワイヤーロープ式の場合は、ワイヤーのたるみや損傷、ガイドの摩耗などをチェックします。

  • 配線・接続部の確認: 配線に断線や被覆の損傷がないか、端子台の緩みがないかなどを目視で確認します。

  • 緊急停止回路の機能確認: 非常停止ボタンを押した際に、機械の動力源が確実に遮断され、危険な動きが停止することを確認します。この確認は、専門知識を持つ者が行うべきであり、必要に応じて専門業者による点検も検討します。

  • 保護カバーやガードの確認: 誤操作防止のために設置されているカバーやガードが破損していないか、適切に機能しているかを確認します。

5.4.2 点検頻度と記録

点検頻度は、機械の種類、使用頻度、設置環境などによって異なりますが、一般的には以下の頻度で実施することが推奨されます。

  • 日常点検(始業前など): 作業開始前に、ボタンの視認性や基本的な動作(押し込み、解除)を目視で確認します。

  • 定期点検(月次、年次など): より詳細な機能確認や、配線、接続部の確認を行います。労働安全衛生規則など、関係法令で定められた点検周期がある場合はそれに従います。

点検を実施した際は、点検日、点検者、点検結果、特記事項などを記録し、保管することが重要です。これにより、異常の早期発見や、履歴に基づいた予防保全が可能となります。

5.4.3 メンテナンスの重要性

点検の結果、異常が発見された場合は、速やかに修理や部品交換などのメンテナンスを行う必要があります。故障した非常停止ボタンを放置することは、重大な事故に直結する危険をはらんでいます。

定期的な清掃や、必要に応じた消耗部品の交換も、非常停止機能の信頼性を維持するために不可欠です。これらの取り組みを通じて、非常停止ボタンが常に最高の状態で機能することを保証し、作業現場の安全を確保します。

6. まとめ

非常停止ボタンは、単なる緊急停止装置ではありません。労働安全衛生法や国際規格ISO、JISがその設置を義務付け、厳格な基準を設けているのは、働く人々の命と安全を確実に守るためです。産業革命以来の長い歴史の中で、危険な機械から人を守る安全装置として進化を遂げ、現代ではIoTやAIといった最新技術との融合により、予防保全やヒューマンエラー対策としてもその重要性を増しています。非常停止ボタンの適切な理解と正しい運用は、安全な職場環境を確保し、日本の産業を支える上で不可欠な要素と言えるでしょう。


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