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【完全解説】非常停止スイッチの規格とは?JIS・ISO準拠の安全設計を徹底ガイド
「非常停止スイッチ 規格」についてお悩みではありませんか?この記事では、JISやISOといった国内外の主要規格に基づき、非常停止スイッチの役割から安全設計、設置、保守までを徹底解説します。機械の安全性を確保し、労働災害を未然に防ぐためには、これらの規格への準拠が不可欠です。この記事を読めば、安全設計に必要な知識が網羅的に得られ、あなたの疑問がすべて解決するでしょう。
1. 非常停止スイッチの重要性と規格の必要性
1.1 なぜ非常停止スイッチが不可欠なのか
製造現場や各種機械設備において、非常停止スイッチは単なる機械を止める装置ではありません。 予期せぬ事態や異常が発生した際、作業者の生命や身体、そして機械設備自体を危険から守るための「最後の砦」として機能します。
例えば、機械の誤動作、予期せぬ起動、作業者の不注意による危険区域への侵入、あるいは材料の詰まりなど、様々な緊急事態が想定されます。このような状況下で、非常停止スイッチが迅速かつ確実に機能しなければ、取り返しのつかない労働災害や重大な設備損害に直結する可能性があります。
労働安全衛生法をはじめとする各種法令では、事業者に労働者の安全確保を義務付けており、機械設備における危険源への対策は最も重要な要素の一つです。非常停止スイッチは、その法的義務を果たす上で不可欠な安全装置であり、万が一の際に被害を最小限に抑えるための重要な役割を担っています。
1.2 非常停止スイッチの規格が安全にもたらす効果
非常停止スイッチの重要性は広く認識されていますが、その効果を最大限に引き出し、真に安全な環境を構築するためには、国際的・国内的な「規格」に準拠することが不可欠です。
規格とは、製品やサービスの品質、安全性、互換性などを保証するための統一された基準やルールを指します。非常停止スイッチにおける規格は、その設計、機能、設置、表示、試験方法に至るまで、多岐にわたる要件を定めています。これにより、以下のような多大な効果がもたらされます。
このように、非常停止スイッチに関する規格は、単なる技術的な文書ではなく、人々の安全と企業の持続可能性を支える基盤として極めて重要な役割を担っています。次章以降では、これらの規格の具体的な内容について詳しく解説していきます。
2. 非常停止スイッチの基本を理解する
非常停止スイッチは、機械や設備における安全対策の要となる重要なコンポーネントです。その基本的な役割、機能、そして多様な種類や適切な設置方法を理解することは、安全な作業環境を構築し、維持するために不可欠です。
2.1 非常停止スイッチの役割と機能
非常停止スイッチの最も重要な役割は、危険な状況が発生した際に、機械や設備の動作を迅速かつ確実に停止させることです。これにより、作業者の人身傷害や設備の重大な損傷を防ぎ、二次災害の発生を抑制します。これは、機械安全における最終防衛線とも言える機能です。
非常停止スイッチが備えるべき主な機能は以下の通りです。
危険源の即時遮断: スイッチが操作されると、動力源(電気、油圧、空圧など)を直ちに遮断し、機械の運動や危険な動作を停止させます。
ラッチ機能: 一度押されたら、手動で解除されるまでその状態(停止状態)を維持します。これにより、意図しない再起動を防ぎます。
強制開離機構: 接点が溶着するなどの故障が発生した場合でも、機械的に回路を確実に開く構造を持っています。これにより、電気回路が閉じっぱなしになることによる危険な状態を防ぎます。
再起動の防止: 非常停止が解除された後も、安全が確認され、意図的な操作がない限り、機械が自動的に再起動しないように設計されています。通常、リセット操作と別途の起動操作が必要です。
フェールセーフ原則: 故障が発生した場合でも、常に安全な側(停止側)に動作するように設計されています。
2.2 非常停止スイッチの種類と特徴
非常停止スイッチには、様々な形状や操作方式があり、用途や設置環境に応じて適切なものが選ばれます。主な種類と特徴を以下に示します。
これらの種類は、機械の種類、作業環境、リスクアセスメントの結果に基づいて適切に選択される必要があります。
2.3 非常停止スイッチの設置場所と原則
非常停止スイッチは、その有効性を最大限に発揮できるよう、適切な場所に、適切な方法で設置される必要があります。以下の原則と具体的な注意点を考慮することが重要です。
設置の基本原則:
容易なアクセス性: 危険区域内のあらゆる場所から、作業者が迅速かつ容易に到達・操作できる位置に設置すること。
高い視認性: スイッチの位置が明確に分かり、緊急時に迷わず見つけられること。通常、黄色の背景に赤色のボタンが推奨されます。
誤操作の防止: 意図しない接触や衝撃による誤作動を防ぐための対策(例:ガードの設置)を講じること。
障害物の排除: スイッチの周囲には、操作を妨げるような障害物がないことを確認すること。
適切な高さ: 一般的に、床面から0.6m~1.7mの範囲に設置することが推奨されます(ISO 13850に準拠)。
危険源への近接性: 危険な状況が発生しやすい場所や、危険源に最も近い場所に優先的に設置すること。
具体的な設置場所の考慮事項:
各機械の操作盤: 機械の主要な操作盤や制御盤の近くに設置します。
作業者の動線上: 作業者が日常的に移動する経路や、危険区域への出入り口付近に設置します。
長大な機械・ライン: コンベヤラインや長尺の機械では、危険区域全体をカバーできるように、複数の非常停止スイッチを等間隔で配置します。
特定の危険箇所: ロボットの可動範囲内、材料供給口、排出部など、特に危険性が高いと判断される箇所に追加で設置します。
緊急時の退避経路: 作業者が危険から退避する際に操作しやすい位置にも考慮します。
これらの原則と考慮事項に従うことで、非常停止スイッチは真に機能し、作業者の安全を確保するための最後の砦としての役割を果たすことができます。
3. 非常停止スイッチに関する主要な国際規格
非常停止スイッチの設計と実装においては、国際的に認められた規格に準拠することが極めて重要です。これらの規格は、機械の使用者や作業者の安全を確保し、世界中で製品が流通する上での共通の安全基準を提供します。ここでは、特に重要な国際規格について詳しく解説します。
3.1 ISO 13850 非常停止機能の設計原則
ISO 13850は、機械における非常停止機能の設計原則に特化した国際規格です。この規格は、非常停止機能がどのように設計され、動作すべきかについての具体的な要件を定めています。その目的は、危険な状態が発生した場合に、迅速かつ確実に機械の動作を停止させ、危害を回避または軽減することにあります。
主な要求事項としては、以下のような点が挙げられます。
非常停止アクチュエータの識別と配置: 非常停止ボタンは、容易に識別できる色(通常は黄色地に赤色)と形状を持ち、作業者がアクセスしやすい場所に配置されなければなりません。
停止カテゴリ: 非常停止機能は、危険源の種類とリスクレベルに応じて、適切な停止カテゴリ(カテゴリ0、1、2)を適用する必要があります。
カテゴリ0: 動力源の瞬時遮断による停止(制御されない停止)。
カテゴリ1: 動力源の遮断前に、所定の停止動作が完了する制御された停止。
カテゴリ2: 動力源が維持された状態で、制御された停止が達成される停止。
ラッチ機能: 非常停止アクチュエータは、作動後に手動でリセットされるまで、停止状態を維持するラッチ機能を持つ必要があります。
リセット機能: 非常停止機能が作動した後、機械を再起動するには、手動でのリセット操作が必要であり、このリセット操作自体が機械の再起動を引き起こしてはなりません。リセット後に改めて起動操作を行うことで、意図しない再起動を防ぎます。
誤操作防止: 非常停止機能は、意図しない作動や妨害を受けにくいように設計される必要があります。
ISO 13850に準拠することで、非常停止機能が国際的な安全基準を満たし、その有効性と信頼性が確保されます。
3.2 ISO 12100 機械類の安全性 リスクアセスメントとリスク低減
ISO 12100は、機械類の安全性に関する基本的な概念、設計原則、およびリスクアセスメントとリスク低減の一般的な方法を規定する国際規格です。非常停止スイッチの設計は、このISO 12100で示されるリスクアセスメントのプロセスに深く関連しています。
この規格では、機械の設計者が以下のステップで安全設計を進めることを求めています。
機械の限界の特定: 使用目的、予見可能な誤使用、空間的・時間的限界などを明確にします。
危険源の特定: 機械のライフサイクル全体を通じて発生しうる全ての危険源(機械的、電気的、熱的、騒音、振動など)を特定します。
リスクの見積もり: 特定された各危険源について、危害の重大性、発生確率、回避可能性を考慮してリスクを見積もります。
リスク評価: 見積もられたリスクが許容可能かどうかを評価します。
リスク低減: リスクが許容できない場合、設計変更、保護方策(ガード、安全装置など)、情報提供(警告、取扱説明書)の順序でリスクを低減します。
非常停止機能は、このリスク低減のステップにおいて、残存する危険源に対する追加的な保護方策として導入されます。つまり、他の設計上の安全対策や保護装置だけでは対応しきれない、または予期せぬ状況で発生する危険に対して、作業者が最終的な手段として機械を停止させるための重要な機能として位置づけられます。ISO 12100に則ったリスクアセスメントを行うことで、非常停止機能が必要とされる場所やその機能要件が明確になります。
3.3 ISO 13849 機械類の安全性 制御システムの安全関連部
ISO 13849は、機械の制御システムの安全関連部(SRP/CS)の設計および評価に関する国際規格です。非常停止機能は、多くの場合、このSRP/CSの一部として構築されるため、ISO 13849の要求事項に準拠する必要があります。
この規格の核心は、安全機能が達成すべき信頼性のレベルをパフォーマンスレベル(PL)として規定している点にあります。PLは、aからeまでの5段階で示され、aが最も低い信頼性、eが最も高い信頼性を示します。リスクアセスメント(ISO 12100)の結果に基づいて、各安全機能に必要なパフォーマンスレベル(PLr:Required Performance Level)が決定され、そのPLrを満たすようにSRP/CSが設計されます。
ISO 13849では、SRP/CSの信頼性を評価するために、以下の要素を考慮します。
カテゴリ: 構造的な要件(単一チャネル、二重チャネルなど)と故障に対する挙動(故障時の安全性、故障の検出など)を示します(B、1、2、3、4)。
平均危険側故障時間(MTTFd): 部品の平均的な寿命に対する故障率。
診断カバレッジ(DC): 故障が検出される割合。
共通原因故障(CCF): 複数のチャネルが同時に故障する可能性。
非常停止回路は、これらの要素を考慮して設計され、計算されたPLが要求されるPLr以上であることを検証する必要があります。これにより、非常停止機能が意図した通りに、かつ必要な信頼性を持って動作することが保証されます。また、電気・電子・プログラマブル電子安全関連システムだけでなく、油圧や空気圧システムなどの安全関連部も対象となります。
3.4 IEC 60204-1 機械の電気装置と非常停止スイッチ
IEC 60204-1は、機械の電気装置に関する国際的な安全規格であり、非常に広範な内容をカバーしています。非常停止機能の電気的な側面は、この規格の重要な一部として扱われます。
この規格は、機械の電気装置の設計、製造、据え付け、および試験に関する要件を定めており、非常停止スイッチやその関連回路についても具体的な指示を含んでいます。主な関連事項は以下の通りです。
非常停止回路の設計: 非常停止回路は、独立した配線経路を持ち、短絡や断線などの単一故障が発生しても、安全機能が損なわれないように設計されるべきです。
電源の遮断: 非常停止機能が作動した際、機械の危険な動きを引き起こす全ての動力源(電気、油圧、空気圧など)が適切に遮断される必要があります。特に電気的な動力源の遮断については、詳細な要件が定められています。
表示と識別: 非常停止ボタンは、IEC 60204-1の要件に従い、明確に識別できる色(赤色のアクチュエータ、黄色地の背景)と記号で表示されなければなりません。
配線と保護: 非常停止回路の配線は、他の回路から物理的に分離されるか、または適切な保護(例:シールド)が施されるべきです。また、過電流保護装置の選定と設置についても規定があります。
試験: 電気装置の設置後および定期的な保守点検において、非常停止機能を含む安全関連回路の機能試験が義務付けられています。
IEC 60204-1に準拠することで、非常停止機能が電気的に安全かつ信頼性の高い方法で統合され、機械全体の電気的安全性が確保されます。この規格は、ISO 13850やISO 13849といった機能安全規格と連携し、非常停止システムの完全な安全性を確立するために不可欠な役割を果たします。
4. 非常停止スイッチに関する主要な国内規格
4.1 JIS B 9700シリーズと非常停止スイッチの規格
日本国内において、機械の安全設計、特に非常停止スイッチの設計に深く関わるのがJIS B 9700シリーズです。このシリーズは、国際標準化機構(ISO)が定める機械安全に関するISO規格に整合して制定されており、国内の産業機械の安全性を確保するための重要な基盤となっています。
JIS B 9700シリーズは、機械安全の基本原則から、リスクアセスメント、制御システムの安全関連部(SRP/CS)の設計、検証に至るまで、幅広い範囲をカバーしています。非常停止機能の設計においては、特に以下の規格が重要となります。
これらのJIS規格に準拠することで、国内で製造・使用される機械の非常停止機能が、国際的な安全水準を満たし、労働者の安全を効果的に保護することが可能になります。
4.2 JIS B 9960シリーズと非常停止スイッチの関連性
非常停止スイッチは電気的な制御システムの一部として機能するため、機械の電気装置に関する規格も非常に重要です。JIS B 9960シリーズは、国際電気標準会議(IEC)のIEC 60204-1(機械の電気装置)に整合して制定されており、機械の電気装置の設計、製造、設置、試験に関する要求事項を定めています。
特にJIS B 9960-1は、非常停止装置を含む機械の電気装置の全般的な安全要件を規定しています。この規格は、非常停止回路の構成、配線方法、過電流保護、短絡保護、絶縁耐力など、電気的な側面から非常停止機能の信頼性と安全性を確保するための詳細な要求事項を定めています。非常停止スイッチが正しく機能するためには、このJIS B 9960-1に準拠した電気回路設計と配線が不可欠です。
この規格に適合することで、非常停止スイッチが意図された安全機能を確実に果たし、電気的な故障によってその機能が損なわれるリスクを最小限に抑えることができます。
4.3 関連する国内法規とガイドライン
JIS規格やISO規格は技術的な基準を示すものですが、それらの基準を遵守し、労働者の安全を確保するために、国内には強制力を持つ法規や、実務上の指針となるガイドラインが存在します。
4.3.1 労働安全衛生法と非常停止スイッチ
日本における労働者の安全と健康を確保するための最も基本的な法律が労働安全衛生法です。この法律は、事業者に対し、労働者の危険を防止するための措置を講じることを義務付けており、機械設備に関する安全対策もその重要な柱の一つです。
危険な機械等に対する安全装置の設置義務:労働安全衛生法第20条および関連する労働安全衛生規則において、動力で駆動される機械など、危険な作業を伴う機械には、安全装置の設置が義務付けられています。非常停止スイッチは、この「安全装置」の重要な要素として位置づけられます。
機械等設置届出:特定の機械を設置する際には、労働基準監督署への届出が必要となる場合があります。この際、機械が安全基準に適合していること、非常停止装置が適切に設置されていることが確認されます。
定期自主検査:機械設備の設置後も、事業者は定期的に機械の安全性を自主的に検査し、必要に応じて補修する義務があります。非常停止スイッチの機能確認も、この検査項目に含まれます。
労働安全衛生法は、非常停止スイッチの設置を直接的に義務付けているわけではありませんが、機械の危険性を除去するための包括的な安全対策の一環として、非常停止機能の設置と適切な維持管理を事業者に対して強く求めています。違反した場合には罰則が適用されることもあります。
4.3.2 産業機械の安全に関するガイドラインと非常停止スイッチ
労働安全衛生法の実践的な運用を補完し、JIS規格やISO規格の内容を国内の実情に合わせて具体化するために、厚生労働省は様々な産業機械の安全に関するガイドラインを策定しています。これらのガイドラインは法的拘束力を持つものではありませんが、事業者が安全対策を講じる上での重要な指針となります。
機械の包括的な安全基準に関する指針:この指針は、機械の設計、製造、使用における包括的な安全確保の考え方を示しており、リスクアセスメントの実施や安全方策の選択に関する具体的な内容を含んでいます。非常停止機能の設計・設置についても、この指針に沿って進めることが推奨されます。
リスクアセスメント実施のためのガイドライン:機械の危険性を特定し、リスクを評価し、適切な低減措置を講じるための具体的な手順を示しています。非常停止機能の必要性や性能(PL/SIL)の決定は、このリスクアセスメントの結果に基づいて行われるべきです。
これらのガイドラインは、JIS規格やISO規格の技術的な内容を、日本の産業現場でどのように適用すべきかを示唆しており、非常停止スイッチの選定、設計、設置、保守管理における実務上の重要な参考資料となります。ガイドラインに沿った安全対策は、労働災害の防止に大きく寄与し、事業者の法的責任を果たす上でも有効です。
5. 規格に準拠した非常停止スイッチの安全設計
非常停止スイッチの設置は単なる義務ではなく、機械の安全性を確保するための最も重要な安全機能の一つです。規格に準拠した設計は、その機能が緊急時に確実に動作し、人命と財産を守るための基盤となります。ここでは、その安全設計における具体的な要素を解説します。
5.1 リスクアセスメントに基づく非常停止機能の決定
非常停止機能の設計は、必ず包括的なリスクアセスメントから始まります。これは、ISO 12100「機械類の安全性―設計のための一般原則―リスクアセスメントとリスク低減」に示される手順に沿って行われるべきです。リスクアセスメントでは、以下のステップを踏みます。
機械の危険源の特定: 機械が持つ潜在的な危険源(例:可動部、高温部、高電圧、有害物質など)を洗い出します。
危険源によって引き起こされる可能性のある危険状態の特定: 各危険源がどのような事故や傷害を引き起こす可能性があるかを検討します。
リスクの見積もり: 各危険状態の発生確率と、それが引き起こす傷害の重大性を評価します。
リスクの評価: 見積もられたリスクが許容可能かどうかを判断します。許容できないリスクに対しては、リスク低減策を講じる必要があります。
このリスクアセスメントの結果に基づき、非常停止機能が必要かどうか、またその機能がどのような特性(例:停止カテゴリ)を持つべきかを決定します。特に、予期せぬ機械の動作や故障、操作者の誤操作など、あらゆる緊急事態を想定し、非常停止機能がどの危険源を、どの程度迅速に停止させる必要があるのかを明確にします。
ISO 13850では、非常停止の停止カテゴリとして以下の3つが定義されています。
リスクアセスメントを通じて、機械の特性と危険の性質に最も適した停止カテゴリを選択することが、安全設計の最初の重要なステップとなります。
5.2 パフォーマンスレベルPLと安全度水準SILの適用
非常停止機能を含む安全関連の制御システムは、その信頼性と安全性を客観的に評価する必要があります。この評価指標として、ISO 13849-1「機械類の安全性―制御システムの安全関連部―第1部:設計のための一般原則」に基づくパフォーマンスレベル(PL)と、IEC 62061「機械安全―機能安全―電気・電子・プログラマブル電子安全関連制御システムの機能安全」に基づく安全度水準(SIL)が用いられます。
5.2.1 PLとは
パフォーマンスレベル(PL)は、ISO 13849-1において定義される、安全機能が要求されたときに、その機能を実行できる確率を示す指標です。PLはAからeまでの5段階で評価され、eが最も高い安全レベルを示します。PLの決定には、以下の要素が考慮されます。
カテゴリ: 制御システムのアーキテクチャ(単一チャンネル、二重化など)を示し、故障に対する耐性を示します(B, 1, 2, 3, 4)。
平均危険側故障時間(MTTFd): 各部品が危険側故障を起こすまでの平均時間。
診断範囲(DC): 故障を検出できる割合。
共通原因故障(CCF): 複数の部品が同時に故障する可能性。
これらの要素を組み合わせて、安全機能がどれだけの信頼性を持って動作するかを定量的に評価し、リスクアセスメントで決定された要求PL(PLr)を満たすように設計します。
5.2.2 SILとは
安全度水準(SIL)は、IEC 62061において定義される、電気・電子・プログラマブル電子安全関連システム(E/E/PES)の機能安全のレベルを示す指標です。SILはSIL1からSIL4までの4段階で評価され、SIL4が最も高い安全レベルを示します。SILは主に、安全機能の故障発生確率(PFH: Probability of Failure per Hour または PFD: Probability of Failure on Demand)に基づいて決定されます。
PLとSILは異なる規格に基づくものですが、どちらも安全機能の信頼性を評価し、必要な安全レベルを達成するための設計指針として機能します。非常停止機能の設計においては、機械の複雑性やリスクの高さに応じて、適切なPLまたはSILを目標として設定し、それを満たすように回路構成や部品選定を行うことが不可欠です。
5.3 非常停止回路の設計と配線
非常停止回路は、緊急時に機械を安全に停止させるためのフェールセーフ原則に基づいた設計が求められます。ISO 13850およびISO 13849-1の要求事項に従い、以下の点に留意して設計・配線を行います。
直接動作型(ポジティブオープニング)接点: 非常停止スイッチは、そのボタンが押されると機械的に接点が開く「ポジティブオープニング」機能を持つものを選定します。これにより、接点溶着などの故障時でも確実に回路を遮断できます。
二重化と監視: 単一故障が安全機能を損なわないように、回路の二重化(冗長化)や、故障を検出するための監視機能を設けることが推奨されます。これにより、片方の部品が故障しても、もう一方の部品が安全機能を維持したり、故障を検出して安全状態に移行させたりすることが可能になります。
ラッチング機能: 非常停止スイッチが一度作動したら、手動で解除されるまでその状態を維持する「ラッチング機能」が必要です。これにより、一時的な接触で解除されることを防ぎます。
リセット機能: 非常停止が解除された後、機械が自動的に再起動しないよう、独立したリセット操作が必要となる設計にします。リセット後も、安全が確認されてから通常の起動手順を踏むようにします。
電源遮断: 非常停止スイッチの作動により、関連するすべての危険な動力源(電気、油圧、空圧など)が確実に遮断されるように回路を設計します。
配線の独立性: 非常停止回路の配線は、他の制御回路から独立させ、物理的な損傷や電気的な干渉を受けにくいように保護します。短絡や断線、地絡といった配線故障が安全機能を損なわないような対策も重要です。
短絡保護: 回路の短絡が発生した場合でも、安全機能が維持されるか、または安全状態に移行するように保護装置(ヒューズ、サーキットブレーカなど)を適切に配置します。
これらの設計原則を遵守することで、非常停止回路は予期せぬ事態においても高い信頼性を保ち、人身事故のリスクを最小限に抑えることができます。
5.4 非常停止スイッチの表示と識別
非常停止スイッチは、緊急時に誰でも迅速かつ確実に操作できるよう、明確な表示と識別が求められます。ISO 13850では、その表示に関する具体的な要件が定められています。
アクチュエータの色: 非常停止スイッチの操作部(アクチュエータ)は、必ず赤色である必要があります。
背景色: アクチュエータの周囲の背景色は、必ず黄色である必要があります。これにより、視覚的に際立ち、緊急時に素早く認識できます。
形状: 手のひらで操作しやすいきのこ形や、容易に押しやすい形状が一般的です。誤操作を防ぎつつ、緊急時には確実に作動できる形状が求められます。
シンボルと文字表示: 必要に応じて、非常停止の国際シンボル(IEC 60417-5638)や、「非常停止」または「EMERGENCY STOP」といった文字表示を併記することで、さらに視認性を高めます。
視認性と操作性: スイッチは、どの操作位置からでも容易に視認でき、かつ迅速に操作できる場所に設置されている必要があります。障害物によって隠されたり、操作が困難になったりしないよう配慮します。
これらの表示・識別に関する要件を満たすことで、緊急時における操作者の迷いをなくし、迅速な対応を可能にすることが、非常停止スイッチの有効性を最大限に引き出す上で不可欠です。
5.5 非常停止スイッチの設置と保守点検
非常停止スイッチは、その設計だけでなく、適切な設置と定期的な保守点検によって初めてその安全機能を十分に発揮します。ISO 13850は、設置場所に関する原則も定めています。
操作位置からのアクセス: 機械の各操作位置、または危険区域へのアクセスポイントの近くに設置します。これにより、オペレーターが危険を察知した際に、すぐに非常停止を作動させることができます。
危険源への近接: 危険源に最も近い場所にも設置を検討します。これにより、万が一の事故発生時にも、危険源を迅速に停止させることが可能になります。
偶発的な作動の防止: 意図しない接触による偶発的な作動を防ぐために、必要に応じてガードや埋め込み式の設置方法を検討します。ただし、緊急時の操作性を損なわない範囲でなければなりません。
複数のスイッチの配置: 広範囲にわたる機械や複数の操作位置がある場合、複数の非常停止スイッチを配置することが必要です。これらのスイッチは、それぞれが独立して機能し、いずれか一つが作動すれば機械全体が安全に停止するように配線されている必要があります。
環境への適合: 設置場所の環境(粉塵、水、振動、温度など)に適した保護等級(IPコード)を持つスイッチを選定し、その機能が損なわれないようにします。
設置後も、非常停止スイッチは定期的な保守点検が不可欠です。労働安全衛生法や関連するJIS規格(例:JIS B 9700シリーズ)に基づき、以下の点検項目を定期的に実施し、記録を残すことが求められます。
作動確認: 実際にスイッチを押し、機械が正しく停止することを確認します。この際、停止カテゴリに応じた停止動作が行われるかも確認します。
解除・リセット機能の確認: スイッチの解除が確実に行われ、リセット操作なしには再起動しないことを確認します。
外観の確認: スイッチ本体や表示の損傷、劣化、汚れがないかを確認します。視認性が損なわれていないか、アクチュエータの動きがスムーズかなども確認します。
配線の確認: 配線に緩みや損傷がないか、接続が確実かを確認します。
動作時間の測定: 必要に応じて、非常停止信号が入力されてから機械が完全に停止するまでの時間を測定し、設計時の要件を満たしているかを確認します。
これらの点検を怠ると、緊急時に非常停止スイッチが機能せず、重大な事故につながる可能性があります。適切な設置と継続的な保守点検は、非常停止スイッチの安全機能を維持し、作業者の安全を確保するための重要な管理活動です。
6. 非常停止スイッチの規格に関するよくある質問
6.1 非常停止スイッチと緊急停止スイッチの違い
非常停止スイッチと緊急停止スイッチは、どちらも機械や設備の安全を確保するための重要な機能ですが、その目的、動作、関連する規格において明確な違いがあります。これらを混同すると、適切な安全対策が講じられないリスクがあるため、それぞれの特性を正しく理解することが不可欠です。
非常停止スイッチは、緊急時に作業者の生命を守るための最終手段であり、その設計と設置は国際規格および国内法規に厳格に準拠する必要があります。対して緊急停止スイッチは、設備の保護やプロセスの安全な停止を目的とすることが多く、その機能と実装はシステム全体の安全設計の中で決定されます。
6.2 非常停止スイッチの解除方法と再起動手順
非常停止スイッチが作動した後、機械や設備を安全に再起動するためには、定められた解除方法と手順を厳守することが極めて重要です。誤った手順や不適切な解除は、新たな危険を招く可能性があります。
6.2.1 非常停止スイッチの解除方法
非常停止スイッチは、その性質上、意図的な手動操作によってのみ解除できる構造でなければなりません。これは、ISO 13850などの国際規格によって明確に規定されています。
引張式(プルリリース式):押し込まれたボタンを引くことで解除します。
回転式(ツイストリリース式):押し込まれたボタンを回転させることで解除します。
鍵式:専用の鍵を差し込み、回すことで解除します。これは、権限のある者のみが解除できるようにする場合に用いられます。
自動復帰式の非常停止スイッチは、人身保護の観点から原則として認められていません。 スイッチが解除されたこと自体が、機械の再起動を意味するものではなく、あくまで「停止状態の解除」であり、その後の再起動には別途の手順が必要です。
6.2.2 安全な再起動手順
非常停止が作動した後の機械の再起動は、以下の手順に従って慎重に行う必要があります。
危険源の特定と除去:
非常停止が作動した原因となった危険な状況や状態を特定し、その危険源を完全に除去します。例えば、挟み込まれた物体を取り除く、異常な熱源を冷却するなどです。原因究明と対策が最優先されます。安全確認:
機械の動作範囲内に作業員がいないこと、保護装置が正しく機能していること、インターロックが解除されていないことなど、機械周辺の安全が完全に確保されていることを確認します。必要に応じて、作業エリアの安全確認を複数名で行うことも有効です。非常停止スイッチの解除:
上記1、2の安全確認が完了した後、作動している非常停止スイッチを手動で解除します。解除されたことを示す表示(例:ボタンが飛び出す、ランプが消灯するなど)を確認します。リセット操作(必要な場合):
多くの機械では、非常停止解除後に別途リセットボタンの操作が必要となります。これは、意図しない再起動を防ぐための重要なステップです。リセット操作により、制御システムが再起動可能な状態になります。機械の再起動:
全ての手順が完了し、安全が確認された上で、機械の運転開始ボタンを押して再起動します。この際も、周囲の状況に十分注意し、異常がないかを確認しながら起動します。
これらの手順は、各機械の取扱説明書や安全マニュアルに明記されているはずです。定期的な訓練と手順の周知徹底が、安全な作業環境を維持するために不可欠です。
6.3 既存設備の非常停止スイッチを規格に適合させるには
既存の機械や設備に設置されている非常停止スイッチが、現在の最新規格(JIS、ISO、IECなど)に適合しているかを確認し、必要に応じて改修することは、労働安全衛生法遵守の観点からも非常に重要です。特に、古い設備では現在の安全要求事項を満たしていないケースが多いため、以下の手順で適合化を進めることが推奨されます。
現状のリスクアセスメントの再実施:
まず、対象となる既存設備に対して、現在の作業環境と使用状況を考慮したリスクアセスメントを改めて実施します。これにより、潜在的な危険源や、非常停止機能の不足・不備が明らかになります。JIS B 9700シリーズやISO 12100などを参考に、網羅的に評価します。既存非常停止機能の評価:
現在の非常停止スイッチが、ISO 13850(非常停止機能の設計原則)やIEC 60204-1(機械の電気装置)などの規格要求事項に準拠しているか詳細に評価します。具体的には、以下の点を確認します。配置とアクセシビリティ:危険区域のどこからでも容易に操作できるか。
表示と識別:赤色ボタンと黄色の背景、適切な記号(きのこ型など)が使用されているか。
動作特性:押した瞬間にロックされ、手動でしか解除できないか。
停止カテゴリ:危険源の除去に必要な停止カテゴリ(カテゴリ0または1)が適切に選択され、実装されているか。
回路の安全性:単一故障が安全機能の喪失につながらないよう、二重化や監視機能が備わっているか(パフォーマンスレベルPLまたは安全度水準SILの評価)。
配線と保護:ケーブルの損傷や短絡に対する保護が適切か。
改修計画の策定:
評価の結果、規格不適合な点や改善が必要な点が判明した場合、具体的な改修計画を策定します。これには、非常停止スイッチの追加・交換、制御回路の改修(安全リレーや安全PLCの導入)、配線の見直し、表示の変更などが含まれます。パフォーマンスレベル(PL)や安全度水準(SIL)の目標値を設定し、それを達成するための設計を行います。専門家への相談:
既存設備の改修は複雑な場合が多く、機械安全の専門家やコンサルタント、または安全機器メーカーの技術者に相談することを強く推奨します。彼らは最新の規格知識と実践的な経験を持ち、適切な改修方法や安全対策の提案が可能です。改修の実施と検証:
策定した計画に基づき改修を実施します。改修後は、機能テストと検証を徹底し、非常停止機能が意図通りに動作し、規格要求事項を満たしていることを確認します。必要に応じて、第三者機関による評価を受けることも検討します。文書化と教育:
改修内容、評価結果、テストレポートなどを適切に文書化し、記録として保管します。また、改修された非常停止機能について、作業者への教育訓練を再度実施し、正しい操作方法と緊急時の対応を周知徹底します。
既存設備の適合化は、法令遵守だけでなく、作業者の安全確保と企業の社会的責任を果たす上で不可欠な取り組みです。計画的かつ継続的に実施することで、安全で生産性の高い作業環境を維持できます。
7. まとめ
非常停止スイッチは、緊急時に作業者の命を守る最後の砦であり、その機能と安全性は国内外の厳格な規格によって保証されます。本記事では、ISO 13850やJIS B 9700シリーズといった主要規格から、リスクアセスメントに基づくパフォーマンスレベル(PL)や安全度水準(SIL)の適用、適切な設計・設置・保守までを解説しました。規格に準拠した非常停止機能の導入は、労働安全衛生法などの法的要件を満たすだけでなく、従業員の安全を守り、企業のリスクを低減するために不可欠です。安全な職場環境の構築において、規格への理解と実践がその強固な基盤となります。
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