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「非常停止スイッチ」のすべて:安全規格から選び方、設置、保守まで徹底解説
機械や設備の安全を守る要である「非常停止スイッチ」。その適切な選定、設置、保守は、作業者の安全確保と事故防止に不可欠です。この記事では、非常停止スイッチの定義から種類、国際・国内安全規格、労働安全衛生法に基づく設置義務、正しい選び方、設置・配線方法、さらには日常の保守・点検まで、専門家が知るべき情報を網羅的に解説します。本記事を読めば、あなたの職場や設備における非常停止スイッチの最適な運用方法が明確になり、より安全な作業環境の実現に貢献できるでしょう。
1. 非常停止スイッチとは?その役割と重要性
1.1 非常停止スイッチの定義と目的
非常停止スイッチとは、機械や設備が予期せぬ異常状態に陥った際や、危険が差し迫った状況において、その動作を直ちに停止させるための安全装置です。国際規格であるISO 13850(JIS B 9706)では、「緊急停止機能は、危険状態の発生が差し迫っている、又は発生している場合に、人間が危険状態を回避し、又は危険状態を軽減するために、機械の危険な動き又は危険なプロセスを停止させるために設計された機能」と定義されています。
その主な目的は、作業者の生命と身体の安全を最優先に保護することです。万が一、機械の誤動作や故障、あるいは作業者の誤操作によって危険な状況が発生した場合でも、迅速に機械の運転を停止させ、人身事故や設備の損壊といった重大な被害を最小限に抑える役割を担っています。
非常停止スイッチは、緊急時に誰でも容易に操作できるよう、目立つ色(通常は赤色)と形状(キノコ型ボタンなど)をしており、押し込むことで機械の動力源を遮断し、危険な動きを停止させます。これは、通常の運転停止とは異なり、いかなる状況下でも最優先で動作するよう設計された、「最後の砦」となる安全機能なのです。
1.2 なぜ非常停止スイッチが必要なのか
現代の生産現場では、高性能な機械や自動化された設備が数多く導入されています。しかし、どれほど安全対策が施された機械であっても、予期せぬトラブルや故障、あるいはヒューマンエラーによる危険な状況は常に発生する可能性があります。例えば、部品の詰まり、センサーの誤作動、作業者の不注意による巻き込まれなど、様々なリスクが考えられます。
このような状況において、非常停止スイッチは、リスクアセスメントで除去しきれなかった残留リスクに対応するための極めて重要な手段となります。通常の安全装置(安全柵、インターロックなど)が機能しなかった場合や、想定外の事態が発生した場合でも、作業者が自らの判断で、あるいは周囲の人が危険を察知して、直ちに機械の運転を停止させることが可能になります。
非常停止スイッチの設置は、単に事故を防止するだけでなく、労働安全衛生法などの法規制によって義務付けられている場合が多く、企業の安全管理体制において不可欠な要素です。これにより、作業環境の安全性を高め、労働災害を未然に防ぐことは、企業の社会的責任を果たす上でも極めて重要となります。
1.3 非常停止スイッチが守るもの
非常停止スイッチは、その緊急性の高い機能から、様々な対象を守る役割を担っています。主な保護対象とその重要性は以下の通りです。
2. 非常停止スイッチの基本構造と種類
非常停止スイッチは、その緊急性の高い役割から、堅牢で信頼性の高い構造が求められます。ここでは、非常停止スイッチを構成する主要な部品と、多様な使用環境や目的に応じたその種類について詳しく解説します。
2.1 非常停止スイッチの主要構成部品
非常停止スイッチは、主に以下の3つの主要な構成部品から成り立っています。これらの部品が連携することで、緊急時に機械の動作を安全に停止させる機能を実現します。
2.1.1 操作部
操作部は、作業者が非常時に直接触れてスイッチを作動させる部分です。視認性と操作性が極めて重要であり、国際規格ISO 13850に基づき、一般的に赤色のキノコ型ボタンが採用されています。このキノコ型は、緊急時に手や手のひら、あるいはその他の体の一部で容易に押し込めるように設計されています。また、ボタンの周囲には、黄色い背景色が用いられることが多く、これによりさらに視認性が高まります。操作部には、押し込み式、引き戻し式、回転解除式など、解除方式に応じた機構が組み込まれています。
2.1.2 接点部
接点部は、非常停止スイッチの電気的な心臓部と言える部分です。操作部が作動した際に、機械の電源回路を遮断するための電気接点を含んでいます。非常停止スイッチでは、安全を確保するためにNC(常閉)接点が用いられることが一般的です。これは、スイッチが正常な状態(押されていない状態)では接点が閉じており、電流が流れている状態を維持し、スイッチが押されると接点が開いて電流を遮断する仕組みです。万が一、配線が断線したり、スイッチ内部で故障が発生したりした場合でも、電流が流れなくなり機械が停止する「フェールセーフ」の思想に基づいています。複数の接点を持つタイプもあり、安全回路の多重化や状態監視に利用されます。
2.1.3 筐体
筐体は、非常停止スイッチの内部にある操作部や接点部を保護する外側のケースです。使用環境に応じて、防塵、防水、耐油、耐薬品、耐衝撃などの性能が求められます。材質は、プラスチック、金属(アルミダイキャストなど)などがあり、耐久性と保護性能が考慮されます。また、爆発性雰囲気で使用される場合には、防爆構造の筐体が必須となります。筐体のデザインやサイズは、設置場所のスペースや操作性にも影響を与えます。
2.2 非常停止スイッチの種類と特徴
非常停止スイッチは、その操作方式、解除方式、保護構造など、様々な観点から分類され、それぞれの特徴に応じた用途で使い分けられます。
2.2.1 操作方式による分類
非常停止スイッチは、操作する際の物理的な方法によっていくつかの種類に分けられます。
2.2.1.1 キノコ型押しボタンスイッチ
最も一般的な非常停止スイッチで、頭部がキノコのように大きく、押しやすい形状をしています。機械の操作盤や制御盤、あるいは機械本体のアクセスしやすい位置に設置されます。緊急時に瞬時に、かつ確実に操作できることが最大の利点です。押し込むことで回路を遮断し、解除するまではその状態を維持します。
2.2.1.2 ロープ式スイッチ
コンベアラインや長い生産ラインなど、広範囲にわたるエリアで緊急停止が必要な場合に用いられます。ラインに沿って張られたロープを引くことで、どの位置からでも非常停止信号を送ることができます。ロープの張力変化を検知して作動するため、ロープの断線時にも安全側に働くよう設計されています。
2.2.1.3 フットスイッチ
手を使って作業をしている場合や、手がふさがっている状況で緊急停止が必要な場合に適しています。足でペダルを踏むことで作動します。誤操作を防ぐために、カバー付きや二段階操作が必要なタイプもあります。特に、プレス機や裁断機など、両手作業が多い機械で有効です。
2.2.2 解除方式による分類
非常停止スイッチは、一度作動した後にその状態を解除する方法によっても分類されます。これは、安全確保において非常に重要な要素です。
2.2.3 保護構造による分類
非常停止スイッチは、設置される環境に応じて、外部からの侵入物に対する保護性能が異なります。これは、国際的な規格によって定義されています。
2.2.3.1 IP等級とは
IP(Ingress Protection)等級は、電気機器の筐体による固形物(塵埃など)と水に対する保護の程度を示す国際規格(IEC 60529)です。IPの後に続く2桁の数字で表され、最初の数字が固形物に対する保護等級、2番目の数字が水に対する保護等級を示します。非常停止スイッチを選定する際には、設置場所の環境(屋外、粉塵の多い場所、水がかかる場所など)に応じて適切なIP等級を持つ製品を選ぶことが重要です。
2.2.3.2 防爆構造
ガソリン蒸気、可燃性ガス、粉塵などが存在する爆発性雰囲気で使用される非常停止スイッチには、防爆構造が求められます。これは、スイッチ内部で発生する可能性のある火花や熱が、外部の爆発性雰囲気に引火するのを防ぐための構造です。耐圧防爆構造、本質安全防爆構造、安全増防爆構造などがあり、それぞれの防爆等級やグループに応じて適切な製品を選定する必要があります。これらの製品は、特定の防爆認証機関による厳しい試験と認証を受けています。
2.3 非常停止スイッチの接点構成
非常停止スイッチの接点構成は、その安全機能の根幹をなす部分であり、特にNC(常閉)接点の使用が安全規格で強く推奨されています。
2.3.1 NC接点 常閉接点の重要性
NC接点(Normally Closed Contact)は、「常閉接点」とも呼ばれ、スイッチが作動していない通常の状態(ボタンが押されていない状態)では、接点が閉じて電気回路が導通している状態を指します。非常停止スイッチが押されると、この接点が開いて回路が遮断され、機械の電源が切れる仕組みです。 このNC接点の最大の利点は、「フェールセーフ」の原則にあります。もし、スイッチへの配線が断線したり、スイッチ内部の接点に故障が生じたりして、回路が遮断された場合でも、機械は自動的に停止します。つまり、故障時にも安全側に働くため、非常停止スイッチの主回路には必ずNC接点が使用されます。これにより、意図しない機械の暴走や、緊急時に停止できないといった最悪の事態を防ぐことができます。
2.3.2 NO接点 常開接点との組み合わせ
NO接点(Normally Open Contact)は、「常開接点」とも呼ばれ、スイッチが作動していない通常の状態では、接点が開いて電気回路が遮断されている状態を指します。スイッチが押されると、この接点が閉じて回路が導通します。 非常停止スイッチの主要な安全回路には、前述の理由からNC接点が必須ですが、NO接点が補助的に使用されることもあります。例えば、非常停止スイッチが押されたことを示す表示灯の点灯や、制御システムへの信号入力などに利用されることがあります。 また、安全リレーやセーフティコントローラを用いた高度な安全回路では、NC接点の断線を監視するために、NO接点を組み合わせて使用する場合があります。これにより、NC接点の断線という異常を検知し、安全機能をより強化することが可能です。しかし、NO接点単独で安全機能を構成することは、安全規格上認められていません。
3. 非常停止スイッチに関する安全規格と法規制
非常停止スイッチは、単に危険を止めるだけでなく、作業者の安全を確保し、機械の損傷を防ぐための重要な安全装置です。 そのため、世界中で厳格な安全規格や法規制によってその設計、設置、運用が定められています。これらの規格や法規制を理解し遵守することは、安全な作業環境を構築する上で不可欠です。
3.1 国際規格と国内規格
非常停止スイッチは、その重要性から国際的な統一規格に基づいて設計・製造され、各国の国内規格にも反映されています。これにより、世界中で同等の安全水準が確保されています。
3.1.1 ISO 13850とJIS B 9706
ISO 13850は、機械の非常停止機能に関する設計原則を定めた国際規格です。 この規格は、非常停止装置の機能的要件、性能要件、設置場所、操作方法、表示など、非常停止システム全体にわたる具体的なガイドラインを提供します。目的は、危険な状況が発生した際に、迅速かつ安全に機械の動きを停止させることです。
JIS B 9706は、このISO 13850を日本国内規格として取り入れたものです。 そのため、日本国内で機械を設計・製造する際には、JIS B 9706に準拠することが求められます。これは、非常停止スイッチが常にアクセス可能で、明確に識別でき、確実に機能することを保証するための基盤となります。
3.1.2 IEC 60204-1
IEC 60204-1は、機械の電気装置に関する安全規格であり、非常停止回路の設計要件も含まれています。 この規格は、機械の電気系統が安全に機能し、故障時にも危険な状態にならないための具体的な要求事項を定めています。非常停止スイッチは電気回路の一部として機能するため、IEC 60204-1の要件を満たすことが重要です。特に、非常停止回路の信頼性、故障検出、冗長性などについて詳細な規定があります。
3.2 安全カテゴリとパフォーマンスレベル PL
機械の制御システムの安全関連部(SRP/CS)の設計においては、ISO 13849-1(機械類の安全性-制御システムの安全関連部-第1部:設計のための一般原則)が重要な役割を果たします。この規格では、安全機能の信頼性を評価するための指標として「安全カテゴリ」と「パフォーマンスレベル(PL)」が用いられます。
3.2.1 安全カテゴリとは
安全カテゴリは、制御システムの安全関連部が、予測可能な単一故障や共通原因故障に対してどの程度の耐性を持つかを示す分類です。 カテゴリBからカテゴリ4まであり、数字が大きくなるほど耐故障性が高くなります。非常停止スイッチの回路は、この安全カテゴリのいずれかに分類され、必要な安全レベルに応じて設計されます。
3.2.2 パフォーマンスレベル PL とは
パフォーマンスレベル(PL)は、安全機能が要求されたときに、その機能が実行される確率を示す指標です。 PLはaからeまでの5段階で評価され、PL eが最も高い安全性を意味します。リスクアセスメントの結果、機械の危険度に応じて必要なPL(PLr:Required PL)が決定され、非常停止システムを含む安全関連部は、このPLrを満たすように設計・構築されなければなりません。PLは、システムの構成(安全カテゴリ)、信頼性の高い部品の使用、故障率(MTTFd)、診断範囲(DCavg)、共通原因故障(CCF)などの要素を考慮して算出されます。
3.3 安全度水準 SIL と非常停止スイッチ
安全度水準(SIL: Safety Integrity Level)は、IEC 61508(電気・電子・プログラマブル電子安全関連系の機能安全)および機械安全に特化したIEC 62061(機械類の安全性-電気・電子・プログラマブル電子制御システムの機能安全)で用いられる、安全機能の信頼性を示す指標です。 SILは1から4までのレベルがあり、SIL4が最も高い信頼性を示します。
PLがISO 13849-1に基づき機械制御システムの安全関連部に特化しているのに対し、SILはより広範な産業分野の機能安全に適用されます。しかし、機械安全の分野では、PLとSILは同等の安全レベルを評価するために相互に比較可能です。非常停止スイッチが関わるシステムが、特定のSIL要件を満たす必要がある場合、その設計、部品選定、保守計画はSILの基準に沿って行われる必要があります。
3.4 労働安全衛生法と非常停止スイッチ
日本国内においては、労働安全衛生法が職場の安全と健康を確保するための基本的な法律であり、機械の安全確保についても重要な規定を設けています。非常停止スイッチの設置義務も、この法律の精神に基づいています。
3.4.1 機械の安全確保とリスクアセスメント
労働安全衛生法では、事業者に機械設備から生じる危険性または有害性についてリスクアセスメントを実施し、その結果に基づきリスク低減措置を講じることを義務付けています(労働安全衛生法第28条の2)。非常停止スイッチの設置は、このリスク低減措置の一つとして非常に有効であり、多くの場合、必須の対策となります。リスクアセスメントによって、機械の稼働中に発生しうる危険源を特定し、そのリスクレベルを評価した上で、適切な安全対策を決定します。
3.4.2 非常停止スイッチの設置義務
労働安全衛生規則第131条の2では、動力により駆動される機械について、「非常の場合に直ちにその運転を停止することができる装置」の設置を義務付けています。これは、まさしく非常停止スイッチを指します。特に、プレス機械、シャー、旋盤、研削盤など、作業者が危険にさらされる可能性のある機械には、この装置の設置が不可欠です。設置場所は、作業者が容易に操作できる位置であり、かつ視認性が高いことが求められます。また、非常停止スイッチの機能が常に有効であること、誤操作を防ぐための配慮なども、法律の趣旨に沿った運用として重要です。
4. 非常停止スイッチの選び方と選定ポイント
非常停止スイッチは、緊急時に機械の動作を安全に停止させるための極めて重要な部品です。その選定は、単に「停止させる」という機能だけでなく、設置される環境、操作する人の安全性、そして機械全体の安全システムとの整合性を総合的に考慮して行う必要があります。適切なスイッチを選ぶことで、予期せぬ事故のリスクを最小限に抑え、作業者の安全を確保し、生産設備の損傷を防ぐことができます。
4.1 使用環境と設置場所に応じた選定
非常停止スイッチを選定する際、最も基本的な考慮事項の一つが、そのスイッチが使用される環境と設置場所です。過酷な環境下では、一般的なスイッチでは性能が維持できなかったり、早期に故障したりする可能性があります。
4.1.1 屋内 屋外環境
スイッチが屋内に設置されるのか、屋外に設置されるのかによって、求められる耐久性や保護構造が大きく異なります。
屋内環境:一般的に温度や湿度の変化が少なく、直射日光や雨風にさらされることが少ないため、標準的な保護構造のスイッチが適用可能です。ただし、屋内で使用される機械の種類によっては、油、切削液、化学薬品などが飛散する可能性も考慮する必要があります。
屋外環境:屋外に設置されるスイッチは、直射日光による紫外線劣化、雨水、粉塵、極端な温度変化(高温・低温)、さらには結露や凍結といった厳しい自然条件に耐えうる必要があります。このため、耐候性、UV耐性、そして高い防水・防塵性能を持つ製品を選ぶことが不可欠です。
4.1.2 粉塵 水滴対策
機械が稼働する環境によっては、粉塵や水滴がスイッチ内部に侵入し、故障や誤動作を引き起こす可能性があります。これを防ぐために、適切な保護構造を持つスイッチを選定する必要があります。
IP等級とは:非常停止スイッチの保護構造は、国際電気標準会議(IEC)によって定められたIP(Ingress Protection)等級で示されます。IP等級は「IPXX」と表記され、最初のXは防塵性能、次のXは防水性能を表します。
防塵性能:0(保護なし)から6(粉塵の侵入を完全に防ぐ)までの7段階で示されます。例えば、IP5Xは「有害な粉塵の侵入を阻止する」、IP6Xは「粉塵が内部に侵入しない」ことを意味します。
防水性能:0(保護なし)から8(継続的な水没に耐える)までの9段階で示されます。例えば、IPX5は「あらゆる方向からの噴流水による有害な影響がない」、IPX7は「一時的に水中に沈めても有害な影響がない」ことを意味します。
設置環境の粉塵量や水の使用状況(洗浄、飛沫など)に応じて、適切なIP等級のスイッチを選定することが重要です。
防爆構造:可燃性ガス、蒸気、または粉塵が存在する爆発性雰囲気で使用される非常停止スイッチは、防爆構造を持つ必要があります。これは、スイッチの電気接点から発生する火花や熱が、周囲の爆発性物質に着火するのを防ぐための特別な設計です。防爆構造のスイッチは、国内では労働安全衛生法に基づく型式検定に合格している必要があります。また、国際的にはIECExやATEX指令などの認証が求められます。
4.2 操作性 視認性で選ぶ
緊急時に非常停止スイッチが迅速かつ確実に操作されるためには、その操作性と視認性が極めて重要です。一刻を争う状況で迷うことなく、直感的に操作できる設計が求められます。
4.2.1 操作部の大きさや色
操作部の大きさ:緊急時には、作業者がパニック状態になったり、手袋を着用していたりする可能性があります。そのため、手のひら全体で確実に押し込める十分な大きさの操作部(キノコ型ヘッドなど)を持つスイッチを選ぶことが推奨されます。
操作部の色:非常停止スイッチの操作部は、国際規格(ISO 13850など)により、赤色と定められています。また、その背景は黄色とすることが推奨されています。これは、緊急時に最も目立ち、直感的に「危険」や「停止」を連想させる配色であるためです。視認性の高い色を選ぶことで、緊急時の迅速な対応を促します。
4.2.2 設置高さと位置
非常停止スイッチは、作業者がいつでも容易にアクセスできる位置に設置される必要があります。
アクセス性:作業者の動線上にあり、障害物なく手が届く場所に設置します。また、複数の作業者がいる場合は、それぞれの作業位置からアクセスしやすいように、複数箇所に設置することも検討します。
設置高さ:一般的には、作業者の標準的な身長を考慮し、床面から1.0m~1.7m程度の高さに設置することが推奨されます。座って作業する場所では、その姿勢から操作しやすい高さに調整します。
誤操作防止:意図しない接触や誤操作を防ぐために、スイッチの周囲に保護リングやガードを設けることも有効です。ただし、緊急時の操作を妨げない範囲で設置する必要があります。
4.3 電気的仕様と回路構成
非常停止スイッチは、電気回路の一部として機能するため、その電気的仕様と回路構成がシステム全体と適合していることを確認する必要があります。
4.3.1 定格電圧 電流
定格電圧:スイッチが接続される制御回路の電圧(例:AC100V、DC24Vなど)に適合していることを確認します。
定格電流:スイッチの接点を通して流れる最大電流(定格開閉電流)が、接続される機器の負荷電流に耐えうるものであることを確認します。特に、モーターなどの誘導性負荷を直接制御する場合、突入電流が大きくなるため、定格電流に十分な余裕があるスイッチを選定することが重要です。
4.3.2 接点数と構成
非常停止スイッチの接点構成は、安全機能の信頼性に直結します。
NC接点(常閉接点)の重要性:非常停止スイッチには、必ずNC接点(Normal Close:通常時閉路、押すと開路)を使用します。これは、配線が断線した場合やスイッチ内部で接触不良が発生した場合でも、回路が開放(オープン)状態となり、機械が安全側に停止するようにするためです。これにより、故障時にも危険な状態にならない「フェールセーフ」が実現されます。
NO接点(常開接点)との組み合わせ:一部の非常停止スイッチには、NC接点に加えてNO接点(Normal Open:通常時開路、押すと閉路)が搭載されているものもあります。NO接点は、非常停止が作動したことを制御システムや上位システムに信号として送るための補助接点として使用されます。しかし、安全回路の主たる停止機能には必ずNC接点を使用し、NO接点を安全機能に直接使用することは避けるべきです。
二重化接点:より高い安全性を要求されるシステムでは、複数のNC接点を持つスイッチや、安全リレー・セーフティコントローラと組み合わせて、接点の二重化(冗長化)を行うことが推奨されます。これにより、一つの接点が故障しても安全機能が維持される可能性が高まります。
4.4 認証 適合規格の確認
非常停止スイッチは、その機能が人命に関わるため、国際的および国内の安全規格に適合していることが必須です。製品選定時には、以下の認証や適合規格表示を確認することが重要です。
ISO 13850(非常停止機能-設計原則):非常停止機能の設計に関する国際規格です。この規格に準拠している製品は、適切な設計原則に基づいて製造されています。
JIS B 9706(機械類の安全性-非常停止機能-設計原則):ISO 13850の日本工業規格です。
IEC 60204-1(機械類の安全性-機械の電気装置):機械の電気装置全般に関する国際規格で、非常停止回路の設計にも関連します。
CEマーキング:欧州連合(EU)域内で販売される製品に義務付けられる適合マークです。製品がEUの安全、健康、環境保護に関する指令に適合していることを示します。
UL認証:アメリカ合衆国のUnderwriters Laboratories Inc.(UL)による製品安全認証です。特に北米市場で機械を導入する場合に重要となります。
CCC認証:中国強制製品認証制度(China Compulsory Certification)で、中国市場で製品を販売する際に必要な認証です。
これらの認証や適合規格表示は、製品が特定の安全基準を満たしていることの証となります。導入する機械や設備が適用される地域の法規制や安全基準に準拠している非常停止スイッチを選定してください。
4.5 主要メーカーと製品例
非常停止スイッチは、多くの国内外のメーカーから多様な製品が提供されています。ここでは、主要なメーカーとその特徴、代表的な製品シリーズをいくつか紹介します。
これらのメーカー以外にも、多くの信頼できるメーカーが存在します。製品選定の際には、各メーカーのウェブサイトで最新の製品情報や技術仕様を確認し、自社のニーズに最も合致する製品を選びましょう。
5. 非常停止スイッチの設置と配線
非常停止スイッチは、その性能を最大限に発揮し、人命と設備を保護するために、適切な場所に正しく設置し、確実な配線を行うことが不可欠です。ここでは、そのための具体的なポイントと注意点について解説します。
5.1 適切な設置場所の選定
非常停止スイッチの設置場所は、その有効性を大きく左右します。以下の点を考慮して、慎重に選定する必要があります。
5.1.1 アクセス性
非常停止スイッチは、危険が発生した際に、作業者が瞬時に操作できる位置に設置されなければなりません。具体的には、作業エリアの各所から手の届く範囲内、かつ障害物によって操作が妨げられない場所に配置することが重要です。
作業者が日常的に作業する場所、または危険源に近接する場所に設置する。
緊急時に迷わず到達できるよう、明確な経路を確保する。
複数の作業者がいる場合は、それぞれの作業位置から操作可能かを確認する。
5.1.2 視認性
非常停止スイッチは、緊急時に一目でその存在を認識できるように、高い視認性が求められます。一般的には、赤色の操作部と黄色の背景色を用いることが国際規格で推奨されています。
周囲の設備や背景に紛れないよう、目立つ色を使用する。
十分な照明が確保され、影にならない場所に設置する。
必要に応じて、矢印や標識などで位置を明示する。
5.1.3 誤操作防止
非常停止スイッチは、緊急時に確実に操作できる一方で、意図しない誤操作を防ぐための対策も必要です。不必要な停止は生産性の低下だけでなく、かえって危険な状況を生む可能性もあります。
不意の接触を防ぐための保護カバーやガードを設ける(ただし、緊急時の操作を妨げない構造であること)。
操作部が突出しすぎないように、または窪んだ場所に設置する。
設置高さは、作業者の身長や操作姿勢を考慮し、無理なく操作できる位置とする。
5.2 非常停止回路の構成例
非常停止スイッチからの信号は、機械の安全停止を実現するための安全回路に組み込まれます。安全回路は、単一故障が危険な状態を引き起こさないように設計される必要があります。ここでは、代表的な構成例を挙げます。
5.2.1 安全リレーを用いた回路
安全リレーは、非常停止スイッチからの信号を受け、機械の動力源を遮断するための専用リレーです。内部に冗長性(二重化)を持たせ、自己診断機能や強制ガイド接点を持つことで、一般的なリレーでは実現できない高い安全性を確保します。
基本的な構成としては、非常停止スイッチのNC接点(常閉接点)を2チャネル(二重)で安全リレーに入力し、安全リレーが出力する安全接点を通じて機械の主電源や駆動源を遮断します。これにより、非常停止スイッチの故障や配線の断線が発生した場合でも、安全側に停止する「フェールセーフ」が実現されます。
リセットボタンは、非常停止状態を解除するために必要ですが、これは非常停止スイッチが押された原因が取り除かれたことを確認した後にのみ操作できるよう、独立して設置されることが一般的です。
5.2.2 セーフティコントローラを用いた回路
セーフティコントローラ(安全PLCとも呼ばれる)は、複数の安全入力(非常停止スイッチ、ライトカーテン、安全ドアスイッチなど)と安全出力を集中管理し、プログラマブルなロジックで安全機能を実現する装置です。大規模な設備や、複数の安全機能を統合する必要がある場合に適しています。
セーフティコントローラを使用することで、複雑な安全ロジックを柔軟に構築でき、診断機能による故障箇所の特定や、システムの稼働状況の監視が容易になります。また、従来の安全リレー回路に比べて配線が簡素化されるメリットもあります。
どちらの構成を選択するかは、機械の危険度、必要な安全カテゴリ(ISO 13849-1に基づくPL)や安全度水準(IEC 61508/61511に基づくSIL)によって決定されます。
5.3 配線方法と注意点
非常停止スイッチの配線は、その機能と安全性を確保するために非常に重要です。誤った配線は、緊急時にスイッチが機能しない、または誤動作を引き起こす原因となります。
5.3.1 NC接点 常閉接点の直列接続
非常停止スイッチの接点は、NC接点(常閉接点)を使用し、安全回路に対して直列に接続することが原則です。これは、配線が断線した場合でも、回路が開放され、機械が安全側に停止する「フェールセーフ」の原則に基づいています。
複数の非常停止スイッチがある場合も、それぞれのNC接点を直列に接続することで、いずれかのスイッチが操作されたり、その配線に異常が生じたりした際に、安全回路全体が遮断されるように構成します。
5.3.2 短絡防止対策
配線の短絡は、非常停止回路の機能を無効化する重大な危険を伴います。以下の対策を講じることが重要です。
5.3.3 ケーブルの種類と保護
使用するケーブルは、設置環境や電気的仕様に適したものを選択し、適切な保護を施す必要があります。
環境適合性:油、水、粉塵、高温、低温、紫外線などの影響を考慮し、耐油ケーブル、防水ケーブル、耐熱ケーブルなどを選定する。
ノイズ対策:電磁ノイズの影響を受けやすい環境では、シールドケーブルを使用したり、動力線と信号線を分離したりする。
機械的保護:ケーブルグランド、フレキシブルチューブ、ケーブルダクトなどを利用して、ケーブルを物理的な損傷から保護する。
適切な太さ:流れる電流に対して十分な断面積を持つケーブルを選定し、電圧降下や発熱を防ぐ。
5.4 設置後の動作確認
非常停止スイッチの設置および配線が完了したら、必ず初期動作確認と試運転を実施し、その機能が意図通りに動作することを確認しなければなりません。この確認は、安全性の最終的な保証となります。
各非常停止スイッチの操作:設置された全ての非常停止スイッチを個別に操作し、機械が確実に停止することを確認する。
リセット動作の確認:非常停止状態が解除され、機械が再起動可能になるまでの手順が正しいか、また、安全な手順でしかリセットできないことを確認する。
安全回路の遮断確認:非常停止スイッチが作動した際に、危険源への動力供給が完全に遮断されることを確認する。
異常表示の確認:非常停止が作動した際に、制御盤や操作パネルに適切な表示がされるかを確認する。
記録の保持:動作確認の結果、確認日時、確認者などを記録し、保守点検の履歴として残す。
これらの確認を怠ると、万が一の際に非常停止スイッチが機能せず、重大な事故につながる可能性があります。安全は設置後の確認と継続的な保守によって初めて担保されるものです。
6. 非常停止スイッチの保守と点検
非常停止スイッチは、機械設備の安全を確保するための最後の砦ともいえる重要な安全装置です。その機能が常に確実に動作することを保証するためには、適切な保守と点検が不可欠です。万が一の事態に備え、定期的な確認と適切な対応を行うことで、作業者の安全を守り、重大な事故を未然に防ぐことができます。
6.1 日常点検の重要性
非常停止スイッチの日常点検は、作業者が機械を使用する前や、作業シフトの交代時など、頻繁に実施することが推奨されます。これは、異常の兆候を早期に発見し、より大きなトラブルや事故につながる前に対応するための第一歩となります。
視認確認:スイッチ本体に破損、変形、著しい汚れがないかを確認します。特に、操作部がスムーズに動くか、ロック機構に異常がないかを目視で確認します。
操作感の確認:実際にスイッチを軽く押し込み、スムーズに作動するか、また解除が適切に行われるかを確認します。
周囲の確認:スイッチの周囲に障害物がないか、すぐに手が届く状態であるかを確認します。
日常点検は、専門的な知識を必要としない簡単な確認が中心ですが、その積み重ねが安全性の維持に大きく貢献します。
6.2 定期点検の項目と頻度
日常点検に加えて、より詳細な定期点検を計画的に実施することが重要です。定期点検では、専門的な知識を持つ担当者が、詳細な項目に基づき、非常停止スイッチの機能と信頼性を総合的に評価します。点検頻度は、機械の使用頻度、環境条件、リスクアセスメントの結果に基づいて決定されるべきです。
6.2.1 動作確認
非常停止スイッチの動作確認は、その機能が設計通りに働くかを検証する最も重要な項目です。実際にスイッチを操作し、機械が安全に停止することを確認します。
機能確認:非常停止スイッチを押下し、対象機械が完全に停止することを確認します。停止後、再起動ができない状態になっていることも確認します。
解除機構の確認:スイッチが適切に解除され、機械が安全に復帰できることを確認します。手動復帰型の場合は引き出し、鍵復帰型の場合は鍵操作がスムーズに行えるかを確認します。
安全回路の確認:非常停止スイッチが安全リレーやセーフティコントローラに正しく接続されており、回路が機能していることを確認します。場合によっては、安全回路の断線や短絡をシミュレートし、安全機能が働くことを検証します。
6.2.2 外観点検
外観点検では、スイッチ本体やその周辺に異常がないか、物理的な損傷や劣化がないかを確認します。これにより、外部からの影響による故障や性能低下の兆候を捉えることができます。
本体の破損・変形:スイッチ本体、操作部、カバーなどにひび割れ、欠け、変形がないかを確認します。
表示の劣化:「非常停止」などの文字や色(通常は赤色)が褪色していないか、視認性が保たれているかを確認します。
取り付け部の緩み:スイッチが機械本体にしっかりと固定されているか、取り付けネジの緩みがないかを確認します。
ケーブルの損傷:スイッチに接続されているケーブルに、被覆の破れ、断線、挟み込みなどの損傷がないかを確認します。
6.2.3 配線 端子点検
電気的な接続部分の点検は、接触不良や漏電などによる誤動作や機能不全を防ぐために非常に重要です。
端子部の緩み・腐食:端子ネジの緩みがないか、端子部に錆や腐食が発生していないかを確認します。緩みは接触不良の原因となります。
絶縁被覆の損傷:配線の絶縁被覆に傷や破れがないかを確認します。損傷があると短絡や漏電のリスクが高まります。
結線の正しさ:回路図に基づき、配線が正しく接続されているかを確認します。特に、NC(常閉)接点が正しく直列に接続されているかを確認します。
接点抵抗の測定:必要に応じて、スイッチの接点抵抗を測定し、規定値内にあることを確認します。抵抗値の増加は、接点部の劣化を示唆する場合があります。
これらの定期点検の項目と推奨頻度を以下の表にまとめます。
6.3 故障時の対応とトラブルシューティング
非常停止スイッチに異常が発見された場合、速やかに適切な対応を取ることが極めて重要です。異常を放置することは、重大な事故につながるリスクを高めます。
6.3.1 非常停止スイッチが動作しない場合
非常停止スイッチを押しても機械が停止しない場合、以下のような原因が考えられます。対応は、必ず機械の電源を遮断し、安全を確保した上で行ってください。
スイッチ本体の故障:内部の接点不良、機械的な破損などが考えられます。テスターで接点の導通を確認します。
配線の断線・短絡:スイッチから安全回路までの配線に断線や短絡がないかを確認します。特に、振動や可動部近くの配線は損傷しやすい傾向があります。
安全リレー・セーフティコントローラの故障:非常停止スイッチからの信号を受け取る安全リレーやセーフティコントローラ自体が故障している可能性があります。診断機能がある場合は、その表示を確認します。
電源供給の問題:安全回路への電源供給が停止している、あるいは不安定な場合も動作不良の原因となります。
これらの確認で原因が特定できない場合や、修理が困難な場合は、専門の技術者やメーカーに相談し、適切な修理や交換を行う必要があります。
6.3.2 誤作動の対策
非常停止スイッチの誤作動とは、意図しないタイミングで作動してしまうことや、作動後に適切に解除されないことなどを指します。これもまた、生産性の低下や作業の遅延だけでなく、場合によっては危険な状況を生み出す可能性があります。
意図しない作動:
原因:振動、衝撃、異物の混入、不適切な設置場所(作業者が頻繁に触れる場所など)
対策:保護カバーの設置、耐振動・耐衝撃性の高いスイッチの選定、適切な設置場所の再検討、作業者への教育(不必要な操作を避ける)
解除忘れ・解除不良:
原因:解除方法の誤解、解除機構の固着、内部故障
対策:解除方法の明確化(表示、教育)、定期的な解除動作の確認、スイッチの清掃・潤滑(必要に応じて)
誤作動を防ぐためには、設置環境を考慮したスイッチ選定と、作業者への十分な教育が重要です。
6.4 部品交換と寿命
非常停止スイッチにも寿命があります。これは、主に機械的な操作回数(開閉寿命)と、使用環境(温度、湿度、粉塵、腐食性ガスなど)によって影響を受けます。メーカーは通常、製品ごとに耐久回数を定めていますが、実際の寿命は環境要因によって大きく変動する可能性があります。
交換の目安:
メーカーが定める操作回数に達した場合。
定期点検で接点抵抗の増加、操作感の異常、物理的な損傷が確認された場合。
誤動作や機能不全が頻繁に発生するようになった場合。
交換部品の選定:
可能な限り、元のスイッチと同じメーカーの純正品または推奨される互換品を選定します。異なる製品を使用する場合は、安全規格への適合性、電気的仕様、機械的互換性を慎重に確認する必要があります。
交換作業:
交換作業は、必ず機械の電源を完全に遮断し、ロックアウト・タグアウト(LOTO)などの手順を厳守した上で行います。
電気工事士などの資格を持つ、専門知識のある担当者が行うべきです。
交換後は、必ず動作確認を行い、安全機能が正常に働くことを確認します。
計画的な部品交換は、非常停止スイッチの信頼性を維持し、予期せぬ故障による機械停止や事故を防ぐ上で非常に重要な保守活動です。
7. 非常停止スイッチに関するよくある質問
7.1 非常停止スイッチと緊急停止スイッチの違い
「非常停止スイッチ」と「緊急停止スイッチ」は、多くの場合、同じ意味で使われることがありますが、厳密にはその背景にある規格や文脈によってニュアンスが異なることがあります。しかし、一般的な産業機械の安全においては、どちらも機械の危険な動きを即座に停止させるための安全装置として機能します。
国際規格であるISO 13850(JIS B 9706)では、「非常停止機能」という用語が用いられ、その機能を果たすための装置として非常停止スイッチが位置づけられています。一方、「緊急停止」という言葉は、より広範な緊急事態全般に対応するニュアンスを含むことがあります。以下に一般的な解釈の違いをまとめます。
結論として、多くの現場では「非常停止スイッチ」と「緊急停止スイッチ」は実質的に同じ機能を持つものとして扱われます。重要なのは、そのスイッチが国際規格や国内法規で定められた「非常停止機能」の要件を満たしているかどうかです。
7.2 非常停止スイッチの解除方法
非常停止スイッチは、一度押されると機械の危険な動きを停止させ、その状態を保持します。解除(復帰)するためには、意図的な操作が必要です。主な解除方式は以下の2種類です。
手動復帰型(プッシュプル型、回転型など): 押されたボタンを引く、または回すことで元の状態に戻します。最も一般的なタイプです。
鍵復帰型: 専用の鍵を差し込み、回すことで解除します。誤操作防止や、特定の権限を持つ者のみが解除できるようにする場合に用いられます。
非常停止スイッチが解除されたからといって、すぐに機械が再起動するわけではありません。安全回路の設計により、解除後に別途「起動ボタン」などを操作しないと機械は動き出さないようになっています。これは、非常停止の原因が解消されたことを確認し、安全が確保された上で機械を再起動させるための重要な手順です。
非常停止スイッチの解除は、必ず以下の手順と注意点を守って行う必要があります。
原因の確認と解消: なぜ非常停止スイッチが押されたのか、その原因(例:異常動作、作業員の危険な位置、部品の詰まりなど)を特定し、完全に解消されていることを確認します。
周囲の安全確認: 機械の周囲に作業員や障害物がないか、機械が動き出しても安全であることを徹底的に確認します。
管理者への報告: 多くの現場では、非常停止スイッチが押された場合、速やかに管理者や責任者に報告し、指示を仰ぐことが義務付けられています。
所定の手順での解除: 上記の確認が全て完了した後、所定の手順(引く、回す、鍵を回すなど)で非常停止スイッチを解除します。
機械の再起動: スイッチ解除後、別途設けられた起動ボタンなどを操作して、機械を慎重に再起動します。
安易な解除は、二次災害を引き起こす可能性があり非常に危険です。非常停止は、機械の安全を守る最後の砦であることを常に認識し、適切な手順で対応することが求められます。
7.3 誤って押してしまった場合の対処法
非常停止スイッチを誤って押してしまった場合でも、基本的な対処法は意図的に押した場合と変わりません。重要なのは、慌てずに安全を最優先に行動することです。
落ち着いて状況を確認する
機械が完全に停止したことを確認します。
周囲に危険な状況が発生していないか、作業員が危険な位置にいないかを確認します。
管理者や責任者へ報告する
誤操作であっても、非常停止スイッチが押されたことは重要な事象です。速やかに上司や安全担当者に報告し、指示を仰ぎましょう。
報告を怠ると、機械の停止原因が不明となり、混乱を招く可能性があります。
周囲の安全を徹底的に確認する
機械が再起動しても問題がないか、障害物がないか、他の作業員が危険な場所にいないかなど、目視と声かけで確実に確認します。
誤操作であっても、万が一の事態に備えて安全確認は必須です。
所定の復旧手順に従う
現場で定められた非常停止からの復旧手順(非常停止スイッチの解除、起動ボタンの操作など)に従って機械を再起動します。
自己判断で手順を省略したり、無理に復旧させようとしたりしないでください。
再発防止策を検討する
なぜ誤って押してしまったのか、原因を分析します(例:設置場所が不適切、訓練不足、不注意など)。
今後同様の誤操作を防ぐための対策(例:作業手順の見直し、訓練の強化、スイッチへの保護カバー設置など)を検討し、実行します。
誤操作はヒューマンエラーの一つですが、その後の適切な対応が二次災害を防ぐ鍵となります。「誤って押してしまったから」と軽視せず、常に安全最優先の意識を持って行動することが重要です。
7.4 非常停止スイッチの多重化は必要か
非常停止スイッチの多重化(冗長化)が必要かどうかは、機械のリスクアセスメントの結果と、その機械に要求される安全性能(パフォーマンスレベル PL や安全度水準 SIL)によって決定されます。
国際規格ISO 13849-1(JIS B 9705-1)やIEC 62061は、安全関連制御システムの設計に関する要求事項を定めており、非常停止回路もこれらに従って設計されます。これらの規格では、安全機能が故障した場合でも、危険な状態に陥らないようにするための設計原則が示されています。その一つが「単一故障に対する耐性」です。
具体的には、以下のような場合に多重化が検討されます。
高い安全性能(PLd、PLe、SIL2、SIL3)が要求される場合:
非常に危険度の高い機械や、故障した場合の損害が大きい機械では、高い安全性能が求められます。このような場合、単一の故障(例:スイッチ内部の接点溶着、配線の断線など)によって安全機能が失われることを防ぐために、複数のスイッチや安全リレー、セーフティコントローラを組み合わせた冗長構成が採用されます。
例えば、非常停止スイッチのNC接点を2系統用意し、それぞれ独立した安全回路に接続することで、一方の接点が故障してももう一方が機能するように設計することが一般的です。故障診断機能の要求:
多重化されたシステムでは、各系統の状態を監視し、故障が発生した場合にそれを検知して安全な状態に移行させる「故障診断機能」が組み込まれることがよくあります。これにより、隠れた故障を早期に発見し、修復することが可能になります。リスクアセスメントで特定された残存リスクが高い場合:
リスクアセスメントの結果、非常停止機能の単一故障が許容できないレベルの残存リスクをもたらすと判断された場合、そのリスクを低減するために多重化が必要となります。
しかし、必ずしもすべての非常停止スイッチが多重化されるわけではありません。リスクが比較的低い機械や、要求される安全性能が低い場合は、単一の信頼性の高い非常停止スイッチと適切な安全回路で十分と判断されることもあります。重要なのは、過剰な安全対策ではなく、リスクに応じた適切な安全対策を講じることです。
最終的な判断は、専門家による詳細なリスクアセスメントと、適用される安全規格の要求事項に基づいて行われるべきです。
8. まとめ
非常停止スイッチは、機械・設備の緊急時に人命と財産を守るための極めて重要な安全装置です。その役割は単に機械を止めるだけでなく、労働安全衛生法や国際規格(ISO 13850、JIS B 9706など)に準拠した適切な選定、設置、保守が不可欠です。本記事では、非常停止スイッチの定義から種類、安全規格、選び方、設置、保守、さらにはよくある質問まで網羅的に解説しました。これらの知識を深く理解し、実践することで、予期せぬ事故のリスクを最小限に抑え、安全な作業環境を確立し、企業の事業継続に貢献できるでしょう。
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